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この人の重大発言

写真 「6カ国協議の目的は、会合を開催すること自体ではなく、進展させることにある。北朝鮮は核の放棄という戦略的な決断を下すべきだ」 (朝日新聞7月11日付)
ライス米国務長官

7月10日、北京で胡錦濤国家主席と会談後、記者会見で、6カ国協議の再開に合意したことについてコメントを発表した。


 昨年6月の第3回協議以来、中断したままだった6カ国協議が、7月27日から北京で再開することで合意した背景には、北朝鮮の核開発計画の完全放棄を迫るためには、再開にこぎつける努力をしてきた中国の顔を立てて、北朝鮮に一定の譲歩をするかたちをとらなければならない、という米国の外交的配慮があった。いっぽう、北朝鮮にも深刻な食糧難、電力不足という国内事情に加え、いつまでも再開に応じないままでいれば米国の強硬姿勢を引き出しかねないとの恐れがある。今回、米国がメンツをたててくれたのを合意のきっかけにした、というのが北朝鮮の本音だ。

 ブッシュ米大統領は、金正日総書記を「暴君」とか、「危険な人物」(4月28日)と名指しで批判してきたが、最近では、「ミスター」と敬称をつけて呼ぶことがあった(5月31日)。また、ライス国務長官も北朝鮮を「圧政の前線基地」(1月18日)と非難していたのを、「主権国家」(5月9日)と改める発言をするなど、北朝鮮にシグナルを送っていた。さらに、米国は、再開合意の見返りとして、世界食糧計画(WFP)を通じて、北朝鮮に5万トンの食糧を支援することを表明した(6月22日)。

 北朝鮮は、こうした米国の変化を譲歩と受け止め、中国や韓国による説得への配慮もあって、1年1カ月ぶりの6カ国協議に応じることにした。もっとも、北朝鮮には背に腹は代えられない事情があることも事実で、韓国との南北閣僚級会談(6月22日)では、食糧事情の悪化を説明し、50万トンのコメ支援を要請したほか、韓国の農業協力にも強い関心を示し、協議の場を設けることで一致している。しかしそれ以上に北朝鮮が強く懸念したのは、チェイニー副大統領が金総書記を「世界で最も無責任な指導者」と評した(5月30日)ことでわかるように、北朝鮮の核開発を先制攻撃で阻止しかねない強硬派勢力の存在だったといわれる。

 これまでの経緯をみてみると、「朝鮮半島の非核化は金日成主席の遺訓」というたてまえを掲げ、米国を相手に硬軟両方の、したたかな外交を展開してきた金総書記の手腕が浮き彫りになる。その変幻自在さは、核開発に関する対応ぶりをみると、よくわかる。「核開発の意思も能力もない」と否定し続けながら、1993年3月には、核拡散防止条約(NPT)からの脱退の意思を表明した。94年10月には、今度は一転して「すべての核開発を凍結する」と、カーター米大統領との間で合意し、エネルギー支援(重油50万トン供与、軽水炉2基建設)を得た。ところが、2002年10月になると、ウラン濃縮による核開発を認め、12月には核施設凍結の解除を宣言する。03年1月になると、NPT即時脱退を宣言し、次いで4月には核兵器の製造・保有を非公式に伝える、とだんだんエスカレートし、10月には使用済み核燃料棒の再処理終了を表明する。05年2月には、とうとう核兵器保有を宣言するという具合だった。

 今度で4回目になる6カ国協議では、米国が前回の協議で求めた「無条件での核開発の完全放棄」を改めて迫る。米国としては、北朝鮮がこれを受け入れれば、重油の供与をはじめ、多国間で安全を保証し、経済制裁やテロ支援国家指定の解除などを行うことを表明している。この10年間で金正日が続けてきた瀬戸際外交は、軍事に限れば相当の"成果"を見せたことになる。しかし、「抑止力としての核兵器の保持」と、米国の「体制の保証」を求める北朝鮮が、「核開発放棄」にすんなりと応じるかどうか。ただ12日には、韓国が「重大な提案」として、核廃棄の見返りに200万キロワットの電力を供給することを明らかにし、側面から協議の進展を目指す考えを示したのが注目される。いっぽう、日本としては、核開発問題とともにミサイル、拉致問題も同時に取り上げるよう主張するつもりだが、北朝鮮は拉致問題の協議を拒否しており、中国、ロシアも慎重で、苦しい対応を迫られそうだ。



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私の主張
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(2000年)TMD導入と国産偵察衛星実現を考えるための基礎知識
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