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写真 「道路公団の真の実力者は、天下りを差配してきた内田道雄副総裁だった。これで公団の高コスト体質は、官製談合によって生み出されていたことが証明されるだろう」 (産経新聞7月26日付)
猪瀬直樹・作家、道路関係4公団民営化推進委員

7月25日、東京地検特捜部が、内田道雄・日本道路公団副総裁を橋梁談合をめぐる事件で、独占禁止法違反と背任の疑いで逮捕したことについてコメントした。


 鋼製橋梁メーカーによる談合は、元道路公団の理事で、大手メーカーに天下りした神田創造・横河ブリッジ顧問の逮捕(7月12日)に続いて、仕事の発注者側である道路公団の内田道雄副総裁が逮捕されたことによって、官の主導でつくりあげたことが裏づけられた。官側の発注者幹部が摘発されたのは、1995年の日本下水道事業団談合事件以来(このときは在宅起訴)で、逮捕は初めてだ。また、罰則が重い刑法の背任罪が適用されたのも極めて異例。公正取引委員会の試算によると、談合による不当利得は年間で200億円に及ぶといわれる。公団OBは、現在、談合組織の36社に43人が天下っている。

 地検特捜部が内田副総裁逮捕に踏み切ったのは、道路公団の家宅捜索のさいに押収した資料のなかから、談合の仕切り役をしていた神田元理事と内田容疑者との結びつきをうかがわせる議事録を発見したからだ。内田副総裁は、5月24日の民営化推進委員会委員懇談会において、作家で公団民営化推進委員の猪瀬直樹氏から、98%超の高い落札率が続いていること、また同じ会社が二度続けて落札していないことなど談合の疑いがあると指摘されたのに対し、「あくまでも競争の結果だ。公団職員が退職後、橋梁メーカーに就職するのは職業選択の自由で、談合とは無関係。OB組織のことは知らない」などと真っ向から否定していた。

 今回、明るみに出たのは、典型的な業界、公団OB、公団職員の"三位一体"による官製談合の構図だった。昨年4月ごろ、内田副総裁は横河ブリッジに天下った神田元理事の依頼に応じて、第二東名高速道路の富士高架橋工事(約98億円)の発注に際し、一括発注で決まっていた工事を各社に分割して発注するよう公団静岡建設局の部下に指示した。各社に利益をうまく配分するための談合組織を「かずら会」といい、発注側の狙いは、道路公団OBの天下り先を確保することだった。道路公団が行う工事の原資は、高速道路の通行料、つまり国民の負担である。今度の発注では、結果として約5000万円の不必要な支出を道路公団にさせることになった

 官製談合とは、公共工事の発注者である官公庁職員らが、入札前に、受注業者を指名したり、工事予定価格を漏らすなど、業者らの談合に関与するもので、自由な競争を妨げると同時に、公示価格が高くなったりして、税金の無駄遣いになる可能性が高い。03年、「官製談合防止法」が制定され、公正取引委員会は官製談合に対し改善措置を要請できることになった。しかし、罰則がないため、十分に効果をあげていない。たとえば、昨年、新潟市で起きた下水道工事にからむ官製談合事件の場合、関与した市職員は、同法ではなく、別の競争入札妨害罪で起訴された。今回、刑法の背任罪が適用されたのは、天下りの見返りを要求するなど悪質であること、公団の民営化が目前に迫り、いちだんと透明化が求められていること、郵便貯金の財政投融資資金の貸付先である特殊法人に対する世論の目が厳しくなったことなどがあげられる。

 道路公団最高幹部の逮捕が新しい民営化会社に与えた衝撃は大きい。東日本高速道路会社や西日本高速道路会社の会長は、談合に関与した橋梁メーカー出身者で、社長は、いずれも旧建設省や道路公団の幹部で占められているからだ。民営化の目的は、経営の効率化・透明化をはかり、サービスを改善し、そしてきちんと利益を出し、40兆円に及ぶ負債を返済することである。利用者としては、今回の談合の摘発を残った膿をしぼり出す自浄作用のきっかけにしてもらいたいところだ。



関連論文

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私の主張
(2005年)債務返済と新規建設の両立は可能――道路公団は一流企業に生まれ変わる
近藤 剛(日本道路公団総裁)
(2005年)こんな民営化では不採算道路は造られ続け借金は増える一方
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(2005年)道路公団改革はまだ途上。「民営化は失敗」の空気が次なる改革を阻んでいる
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(2004年)債務超過論の間違い――税金を投入しなくても道路公団は民営化できる
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(2003年)採算のとれない道路建設を即刻やめなければ莫大な血税が必要になる
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(2003年)効率の重視が公正を見失わせる――高速道路計画の凍結は国家の責任放棄
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議論に勝つ常識
(2005年)[道路公団民営化についての基礎知識]
民営化で道路事業の効率化と債務返済は進むのか?
(2004年)[道路公団民営化についての基礎知識]
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[基礎知識]道路公団はなぜ民営化しなければならないのか?



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