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この人の重大発言

写真 「結党50周年記念になるか、解党記念の遺言になるか、知りません」 (読売新聞8月2日付)
舛添要一・参院議員、自民党新憲法起草委員会事務局次長

8月1日、自民党の憲法改正草案の原案を発表した記者会見で、記者団から「郵政解散になった場合、11月に草案は出るのか」と聞かれて。


 自民党は、ことし11月15日の結党60周年を機会に、現行憲法を全面的に見直すため、森喜朗前首相を委員長とする「新憲法起草委員会」を発足させ、憲法改正案を検討していた。委員会は、10の小委員会に分かれ、4月に小委員会要綱、7月には改正草案要綱をまとめたが、今回、政党として初めて条文のかたちで、改正草案のたたき台となる原案を公表したことになる。

 最大の焦点である9条については、現行憲法の戦争放棄条項を削除し、自衛軍を保持すると明記した。また、国際貢献を前提に、専守防衛から、海外での武力行使へ道を開く可能性を残した。ただし、「国際法規及び国際慣例の遵守」などの歯止めを設けている。集団的自衛権はすでに行使できるものとして触れなかった。

 改正原案には、「侵略からわが国を防衛し、国家の平和及び独立並びに国民の安全を確保するため、自衛軍を保持する」(9条の2)とし、2項で「自衛軍は、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動並びにわが国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる」と規定した。また、3項で「自衛軍は総理大臣の指揮監督に服する」、「(国際的活動は)事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を受けなければならない」とした。

 人権を制約することのある「公共の福祉」については、原案は「公益及び公の秩序」と表現を改め、12条で「国民は、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と規定した。

 首相の衆院解散権については「内閣総理大臣が決定する」(54条1項)と規定し、政党については、64条の2で「国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることにかんがみ、その活動の公明及び公正の確保並びにその健全な発展に努めなければならない。政党の政治活動の自由は制限してはならない」と明記した。

 このほか、憲法改正手続きに関しては、現行の「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議する」とあるのを、要件を「過半数」に緩和した(96条)。環境権やプライバシー権などの新しい人権については議論がまとまらず見送られた。地方自治では、新たに「自治体の自主財源の強化」(94条)を盛り込んだ。宗教団体への公金支出の禁止では「社会的儀礼の範囲内にある場合を除く」(89条)として規制を緩和した。

 こうした自民党の改正原案について、評論家の宮崎哲弥氏は、「現行憲法の下での戦後政治を承認し、そこで現れた諸矛盾を解消しようという意図を感じさせる内容で、踏み込んだ改定の9条以外は驚くほど謙抑的だ。この案ならば国民各層に受け入れられる可能性が高い。むしろ自民党の内部から『日本の国柄が反映されていない』といった批判が多発する恐れがある」と評価している。これに対し、小熊英二慶応大助教授は「歴史的にも自衛隊は米軍の補助兵力として創設されたもので、日本独自の自衛軍は創設のように見えながら、同時に米国の要望に応じたもの。この改正が実現すれば、米軍の補助兵力として海外で戦闘に参加することも可能になる恐れがある」と指摘した(いずれも朝日新聞8月2日付)。

 今後、憲法改正をめぐる動きが加速するかどうかは、民主党や公明党の出方がカギになる。与党である公明党は「加憲」、すなわち環境権などを追加することに重点を置いており、9条改正には慎重だ。民主党は、党内で検討作業を進めているが、安全保障について必ずしも党内は一枚岩でなく、来年5月に公表できるかどうか不透明だ。いっぽう、自民党内は現在、郵政民営化法案をめぐり亀裂が生じていて、冒頭の舛添発言はそうした党内情勢を踏まえたものだ。憲法改正の手続きを定める国民投票法案の整備は先送りされ、憲法改正を審議する場の設定(憲法調査会を衣替えするか、新たに常任委員会をつくるか)についての与野党合意もできていないことを考えると、憲法改正の道のりは遠そうだ。




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