「郵政解散」による総選挙(9月11日投票)を前に、郵政民営化に反対した議員らによって、「国民新党」(綿貫民輔代表、元衆院議長)が、また北海道では、地域新党「大地」(鈴木宗男代表)が結成されたが、今度はまた別の新党が結成された。代表には、現職の長野県知事である田中康夫氏が就任した。国会議員でない地方自治体の首長が政党の党首に就任するのは異例で、横浜市長だった飛鳥田一雄氏が社会党再生の切り札として請われ委員長に就任した1977年12月以来のことだ。飛鳥田氏は78年3月まで市長と委員長を兼職し、任期を1年残して市長を辞任している。
新党「日本」に参加したのは、田中知事、荒井広幸参院議員、小林興起、青山丘、滝実の各前衆院議員の5人。当初、国会議員は4人のため、公職選挙法や政党助成法に基づく政党の要件(国会議員5人以上、直近の国政選挙で2%以上の得票率)を満たしていないため、選挙においては政治団体の扱いにとどまり、政見放送や重複立候補など政党としての優遇措置は受けられなかった。しかし、23日、国民新党に参加した長谷川憲正参院議員が新党「日本」に移籍する意向を示唆し、5人になれば政党要件をクリアすることになる。
知事を兼務のままの党首就任について、岩井奉信・日大教授(政治学)は「まったく問題はない。欧州では地方政党の党首を首長が務めるのは当たり前の話だ。ただ、全国的な政党に育てようとするなら、党首は国会議員になって政権を目指すのが望ましい」(毎日新聞8月22日付)と評価した。しかし、地元の長野県では「県民を置き去りにするのか」「売名行為だ」といった困惑や批判の声が上がり、各県知事の評価も賛否が分かれた。
いっぽう、自民党は「政党は理念、綱領、政策があって成り立つ。その意味で目指すべき方向が明確でない。選挙互助会の印象が強い」(武部幹事長)と批判し、民主党の岡田代表は「自民党の権力争いの結果。ほとんど関心はない」と突き放した。これに対し、国民新党の綿貫代表は「無所属で戦っている同志もたくさんいるし、いずれ連合体になる」とエールを贈った。
田中知事は、23日の記者会見で、「地方にいればこそ、リアルな問題として、全体を見据えて変えていける」と兼職のメリットを強調した。田中氏の支持率は5年前の就任時に比べれば半減(現在34.7%)しているが、「脱ダム宣言」をして公共事業を抑制するなど、住民サイドに立ったユニークな県政を展開して、作家の肩書きとあわせて全国的に知名度がある。高い集票力を持つことから、都市部の無党派層への影響力は無視できず、競合する民主党は新党「日本」の侵食を警戒している。また、自民、民主の両党がともに過半数を制することができないとなると、総選挙の結果次第では、政権成立のキャスチングボートを握ることも予想され、今後が注目されている。
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