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写真 「テロとの戦いと被害者救助は両立する。必要なら他の州に頼めば派遣してくれる」 (朝日新聞9月4日付)
ブッシュ米大統領

ハリケーンの被災地救援の主力となるべきルイジアナ州兵がイラクに派遣されていることについて。


 ハリケーン「カトリーナ」がもたらした「アメリカ史上最悪の自然災害」は、貧困層を中心に大きな被害をもたらした。被災者の救出や治安の回復が十分でないことに、政権への批判が高まっている。

「カトリーナ」の被害はメキシコ湾沿岸のミシシッピ、ルイジアナ両州に集中、特にルイジアナ州最大の都市であるニューオーリンズ市が大きな被害を受けた。同市市域の約7割は海面より低い土地で、カトリーナの直撃は逃れたものの、8月30日朝に湖と運河の堤防が決壊。市街地の8割が冠水して、少なくとも数千人の死者を出したと見られる。9月2日には取り残されていた約5万人の救助が一段落、食料配給が再開されたが、市街地の水を抜いて都市機能を回復させるには、数ヶ月はかかりそうだ。

 実は、カトリーナ上陸前の8月28日、ニューオーリンズのネーギン市長はすでに避難「勧告」よりも強い避難「命令」を発していた。だが、自家用車で市内から脱出したり、ホテルの上の階の部屋を取ったりできたのは中流以上の階層で、貧困層の人々にはいずれもかなわなかった。彼らの一部が、被災後に近所の商店から食料をあさり始め、やがて車や現金を奪い、いさかいになると発砲しあう強盗へと変わった。もともとミシシッピ州は全米で2番目に貧しく、またニューオーリンズは犯罪の多発都市だ。災害をきっかけに「持たざる層」の恨みと救援物資の配布の遅れに対する不満が、「凶悪犯が市を仕切るようになった」(市関係者)といわれるまでに治安を悪化させてしまった。

 市は、救援活動にあたっていた警官の一部を治安対策にまわしているが、武装集団に追い返されてしまった例もあるという。このようなときに頼みの綱となるのは州兵のはずだが、ルイジアナ州兵は3分の1にあたる3000人がイラクに派遣中であった。周辺の州に増援を要請し、また米軍も救援活動に本格的に参入しているが、ネーギン市長は、地元ラジオ局のインタビューに「我々が助けを求めても政府は何も分かっていない。イラクの人々は米国に来てほしいと頼んだのか。とっとと腰を上げて、米国史上最大の危機に対応すべきだ」と激しい口調で答えた。

 野党である民主党は、こうした世論を受けて、カトリーナへのブッシュ政権の対応が「適切ではなかった」(ペロン下院院内総務)と批判を強めている。背景には、最近、イラク情勢がいっこうに改善しないことでブッシュ政権の支持率が下がってきていることが挙げられる。また、カトリーナの襲来によってメキシコ湾岸の石油施設はほとんどが生産を停止、昨年から上昇が続くガソリン価格の高騰に拍車がかかったことなども民主党の追い風になっている。民主党としては、ここで中間選挙に向けて攻勢に転じたい構えだ。92年にのハリケーン「アンドルー」がフロリダ州を襲ったとき、父ブッシュ大統領の対応の遅れに批判が集中して同年の大統領選にも響いたことがある。ブッシュ政権にとっては、今後の救援活動が正念場となるだろう。

 日本政府は、アメリカに対して資金・物資の両面で最大50万ドルの援助を行う方針を明らかにし、また国際エネルギー機関の要請にもとづき備蓄石油24万バレルを放出した。昨秋、今年度の防衛予算をめぐる財務省と防衛庁の攻防で、陸上自衛隊定員の大幅削減を要求した財務省に対し、防衛庁が「海外派遣される部隊が増えている上に、これ以上兵力を削減されたら防衛力を維持できない」と反対した経緯がある。もちろん自衛隊の主任務は災害救援ではないが、現実に災害のたびに活躍している以上、PKOに部隊が派遣されて留守の地域が地震や台風などの災害に見舞われたら……と考えると、毎年多くの台風に見舞われる日本としては“対岸の火事”ではすまない話である。



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