楽天は今シーズン、すでに2度の11連敗を喫し、8月下旬には早々とパ・リーグ最下位が確定した。9月28日時点の勝率は2割台、チーム防御率は5.66と、全12球団でワースト1の不甲斐ない成績だ。田尾監督は3年契約だったが、「チームをより強くするためには避けて通れない道」(米田球団代表)という言葉どおり、就任1年目での解任となった。
楽天は、昨年秋の近鉄、オリックスをめぐる再編劇のなか、じつに51年ぶりにプロ野球界に新規参入をはたした新チームだ。同じIT企業のライブドアと争い、おくれて名乗りをあげながら、新球団の立ち上げを勝ち取った。しかし、肝心のチーム編成では後手を踏み、分配ドラフトで獲った選手と新人、他球団を戦力外になったベテランなどの寄せ集め集団でスタートせざるをえなかった。監督経験がなく、評論家から転身した田尾氏を起用したのも、あまりに急ごしらえすぎた。田尾氏自身、「ことしは土台づくりと、のんびり考えていたかもしれない」と解任後に述懐したが、地元ファンは「采配以前に戦力的な問題が多かった。負けた責任を監督だけに押し付けるのはおかしい」と同情し、解任反対の署名運動が起きた。
もともと戦力面で弱点を抱えていたのは事実だが、それなら、しかるべき選手を補強すればいいはずだ。つまるところ、球団がそのための投資を渋ったのが最大の敗因ではないか。有力な新人は一場靖弘投手だけで、金銭トレードによる思い切った補強はついにおこなわれなかった。昨秋のFA市場には、楽天への移籍を希望したヤクルトの真中をはじめ、同じヤクルトの稲葉、巨人の仁志、清水ら大物野手が並んだにもかかわらず、楽天のフロントは獲得に動かなかったという。三木谷浩史オーナーが「ポケットマネーで」と明言した大物外国人獲得費用の10億円も、結局、投入されずじまいだった。
球団経営について、同オーナーは、参入1年目は約15億円の赤字を見込んでいたというが、地元・仙台での観客動員や関連グッズの売り上げが予想以上に好調だったため、8月には、球団の経営諮問委員会で「収支はおおむねトントンになる」と胸を張った。しかし、チーム編成という球団のもっとも大事な部分にお金をかけず、いっぽうで赤字圧縮、健全経営ばかりをアピールされては、現場もファンも納得できまい。昨年、日本プロ野球機構が2リーグ制を維持するために新球団参入を認めたとき、機構側は「各球団が主力クラスを含めた選手を新球団に譲渡し、戦力均衡をはかる」という条件で、楽天に新規参入を促したのだ、という話も伝えられている。そんな“密約”をまにうけて参入を決めたのだとしたら……なるほど、楽天が補強に手を尽くさなかったのは合点がいく。
いずれにせよ、緊縮経営のあおりを受けた田尾監督の後任には早くも、元阪神監督で社会人野球シダックスのGM兼監督の野村克也氏が内定した。野村氏といえば、「野村再生工場」と呼ばれるほど、戦力外扱いされた選手の育成、起用に定評がある。ということは、これも“お金を使わない”三木谷流球団経営の一端なのか。本来、プロ野球の球団経営には、野球文化の振興という企業の論理を超えた社会的使命があるはずだが、三木谷氏にそうした意欲が乏しいとすれば、来季も、ファンがわくわくするような選手の補強は望めそうにない。楽天、危うし!である。
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