現在中国が、東シナ海の日中境界線近くで操業している天然ガス田は、「春暁」(日本名・白樺)、「天外天」(同・樫)、「龍井」(同・翌檜)、「断橋」(同・楠)の4カ所だ。地下鉱脈が日中両国にまたがっているのが確実なため、日本は、昨年6月以来、中国が一方的に開発を進めることに反対してきた。4カ所のガス田のうち、「春暁」が10月中に生産を開始し、最も中国寄りの「天外天」でも、掘削の事実を示すフレアと呼ばれる炎が施設の煙突から出ていることも確認された。
こうした新たな事態を踏まえ、東京で開かれた3回目の日中局長級協議で、日本側は、中国の開発停止を前提にして、初めて4つのガス田の共同開発を提案した。境界線となる排他的経済水域の画定については、日本が沿岸から200カイリの等距離の中間線、中国は大陸棚から200カイリの、沖縄トラフまでを主張して、両国とも譲っていない。日本が共同開発を提案したのは、このままでは天然ガス資源をめぐる紛争がさらに悪化し、日中関係全般に影響を及ぼすことを日本が懸念したためだ。しかし、中国側は回答を19日にも予定される次回の協議まで留保し、従来までの「共同開発は中間線内側の日本側で実施する」という基本姿勢を変えていない。
日本は、中国への対抗上、さる7月には「春暁」に隣接する日本側鉱区に民間会社、帝国石油による試掘を許可した。だが、9月9日、中国海軍がガス田周辺に駆逐艦など5隻を派遣、「威圧と受け止めざるを得ない」(中川経産相)状況になっているため、作業の安全が確保できず、試掘に着手できないままだ。また、人民解放軍が東シナ海を管轄する予備役船艇を新たに編成したとの報道(新華社通信)もある。
4日に開かれた自民党の外交関係合同部会では、中国側が既成事実をつくるための時間稼ぎをしているのではないか、との疑念も示され、「中国が共同開発に乗ってこないときはただちに試掘を行うべきだ」などの政府の弱腰を批判する意見が相次いだ。ガス田周辺における中国海軍の動きについて、毎日新聞記者で元香港特派員の上村幸治氏は、「胡錦濤主席が国連総会などに向けて中国を旅立った日の翌日で、米国に行って『中国は脅威ではない』と訴えようとするメンツをつぶそうとしたものだ。軍に対する指揮権をまだ掌握していない胡指導部そのものを揺さぶろうとした」と、中国政府内部の権力抗争が関係していると分析(「サンデー毎日」10月16日号「インサイド中国」)している。
|
|