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この人の重大発言

写真 「国民皆保険、国民皆年金を維持しながら財政健全化するのは難しいが、自民党として勇気を持って挑戦していかねばならない」 (東京新聞10月25日付)
与謝野馨・自民党政調会長

10月24日、会長を務める財政改革研究会で、消費税を引き上げて全額を社会保障の財源に充てる方針を初めて明言した。


 総選挙(9月11日)で大勝し、続く参院神奈川選挙区補欠選(10月23日)でも勝利した自民党は、満を持したように増税路線へ舵を切り始めた。その象徴が、消費税引き上げと福祉目的税化を打ち出した財政改革研究会の中間報告だ。消費税(1989年に税率3%で導入した大型間接税で、97年4月から5%)の引き上げ分を社会保障の財源に充てるという政策は、これまでの自民党ではタブー視されてきた。目的税化は財政の硬直化につながりやすく、一般財源への転用が困難になるから、目的税化はもっぱら野党が主張してきた。中間報告では、「社会保険方式と公費負担方式の併用堅持を前提に、給付に必要な財源を、現世代の国民が広く公平に負担するため、消費税のすべてを社会保障(福祉)目的税化する」と明記された。

 過去、こうした消費税の福祉目的税化を公言したのは、92年2月、細川連立政権だった。深夜、突然、首相自ら記者会見を行い、消費税を「国民福祉税」と改め、税率を7%に引き上げると、発表した。しかし、抜き打ち的な発表の仕方や根拠があいまいなことから、連立を組む社会党と新党さきがけ(いずれも当時)が強く反対し、結局、細川首相は2日後に撤回した。最近では、民主党が「年金目的消費税」の導入(税率8%を検討)を提案している。

 自民党はこれまで、消費税の引き上げには一貫して慎重で、とりわけ福祉目的税化には財務省や党内の強い抵抗があった。というのは、消費税の導入はもとより、税率引き上げに対しては国民の反対が強く、過去にこの問題が原因で、竹下首相が退陣し(89年)、橋本首相は参院選で敗北、引責辞任(97年)に追い込まれたという苦い経験があるからだ。また、目的税化は財政の硬直化を招くとして財務省も抵抗してきた。ところが、国と地方を合わせた長期債務残高が774兆円(05年度末)に達し、財政再建がもはや待ったなしの政策課題となった。加えて、国政選挙が当面する07年7月の参院選以外は、衆院選がほぼ4年近くはないと見込まれる政治状況となったことも、自民党が消費税引き上げの環境が整ったと判断した理由になった。

消費税の引き上げについて、「任期中は考えない」としてきた小泉首相も、党主導で決めた今回の方針に対し、「国債に依存しないでやっていくということになると、税負担の問題が出てくる」と事実上容認した発言をした(24日夜)。また、ポスト小泉の有力候補のひとりとされる谷垣禎一財務相も「誰が首相をやろうとも財政状況を直さないといけない。消費税の引き上げは避けて通れない」(23日のテレビ出演で)と、増税は不可避との見解を明らかにした。しかし、武部勤幹事長は「直感的にこの考えとは距離を感じる。大きな政府になりかねない。社会保障分野を聖域しかねない発想があるとしたら間違いだ」(25日の会見)と批判し、自民党内の対立を浮き彫りにさせた。

 今後の焦点は、消費税引き上げの税率の幅だ。中間報告でこそ触れなかったものの、柳沢伯夫政調会長代理は「社会保障費が経済成長並みに伸びると12%になる」(24日)と、財務省の財政制度等審議会が現行制度維持のために必要な税率として示した12〜14%を念頭に置いていることを明らかにした。また、石弘光政府税制調査会長は25日、「しかるべき時期に10%に。ただ、一気には引き上げられずステップはあると思う」と語った。財政改革研究会は、来年3月に最終報告をまとめ、政府が06年6月をめどに発表する財政再建改革工程表に盛り込む意向だ。消費税を1%引き上げると約2.5兆円の税収になるが、野党は「物事には順序がある。具体的な歳出カットと並行してなされるべきだ」(前原誠司民主党代表)と早くも反発しており、論議は曲折をたどりそうだ。



関連論文

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96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2005年)少子・高齢社会では「広く公平な負担」を求める消費税の引き上げは当然
石 弘光(税制調査会会長、一橋大学学長)
(2005年)高齢者に厳しく、巨大輸出企業に甘い消費税の引き上げは許せない
湖東京至(関東学院大学法科大学院教授)
(2004年)消費税の個人積立年金を導入せよ。消費喚起と老後保障の一石二鳥になる
大和田滝惠(上智大学法学部教授)
(2004年)厚生年金の債務超過に目を向けよ――バランスシートが教える改革の道筋
高山憲之(一橋大学経済研究所教授)
(2003年)急増する社会保障費――高齢者も等しく負担する消費税の比率を高めよ
森信茂樹(政策研究大学院大学客員教授)
(2003年)消費税中心税制は低所得者の生涯を通じた負担を増やすことになる
八田達夫(東京大学空間情報科学研究センター教授)
(2001年)大幅税率アップを招く消費税の福祉目的税化は、実現不可能である
加藤 寛(千葉商科大学学長)
(2001年)消費税を社会保障の財源にすれば、高齢社会にふさわしい税制ができる
八代尚宏(上智大学国際関係研究所教授)
(2001年)国民年金は社会保険方式を堅持し、保険料未納者には各種ペナルティを
山崎泰彦(上智大学文学部社会福祉学科教授)
(2001年)将来に不安のない年金をつくるには社会保障税を導入した大改革が必要
神野直彦(東京大学教授、東京都税制調査会会長)
(1998年)消費税を二〇パーセントまで上げなければもはや日本は沈没する
水谷研治(東海総合研究所社長)
(1997年)所得税なし――消費税中心の究極の税制を確立せよ
竹内靖雄(成蹊大学経済学部教授)

議論に勝つ常識
(2005年)[消費税率引き上げについての基礎知識]
消費税引き上げ論がなぜタブーでなくなったのか?
(2004年)[消費税引き上げについての基礎知識]
消費税はいつ、何%に引き上げられるのか?
(2004年)[年金改革についての基礎知識]
公的年金の“世代間の不公平”をどう解消すべきか?
(2003年)高齢化社会の税制についての基礎知識
[基礎知識]消費税と所得税――どちらを中心にするべきか?
(2001年)福祉目的税化の是非と消費税率を考えるための基礎知識
(2001年)誰もが納得できる公的年金制度を探るための基礎知識
(1998年)消費税アップの影響とさらなる引き上げの可能性を探るための基礎知識
(1997年)消費税五%をめぐる攻防と税制改革を考えるための基礎知識



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