小泉首相は、「改革続行内閣」と自身が命名したように、6回目となる今回の組閣は、いわゆるサプライズ人事が影をひそめ、実務者中心の布陣が敷かれた。そして、かねてから公言していたとおり、ポスト小泉の有力候補者たちを改革を競わせるかたちで要所に配している。その反面、人事全体では論功行賞の色合いが濃くなったのは否めない。このため、処遇されなかった自民党の派閥からは強い反発が起き、来年9月までの期限付き内閣の前途は、必ずしも平坦ではなさそうだ。
ポスト小泉をうかがう麻生太郎総務相は外相に横滑りし、谷垣禎一財務相は留任、安倍晋三幹事長代理は官房長官として初入閣を果たした。いっぽう、ブレーンの竹中平蔵郵政担当相は総務相を兼務することになり、与謝野馨政調会長が経済財政・金融担当相、二階俊博総務局長が経済産業相、額賀福志郎氏が防衛庁長官にそれぞれ起用された。しかし、後継候補のひとりであったはずの福田康夫元官房長官と、首相の盟友だった山崎拓前副総裁は、党・内閣のいずれの要職にもつかなかった。
小泉首相が初閣議で示した政策課題の基本方針は、冒頭の改革のほかに、2007年10月からの郵政民営化の実施や三位一体改革、社会保障制度改革、アスベスト対策、米軍再配置実現への協力だ。首相は、会見ではこのうち、「問題が山積しているが、国民が一番関心を持っているのは年金、医療を含めた社会保障改革。持続可能な制度にするため負担を、どう分かち合うかだ」と強調した。しかし、厚生労働相に起用したのは議院運営委員長だった川崎二郎元運輸相で、厚生行政には素人だ。しかし、川崎氏は谷垣財務相の直系であることから、財務、厚労両省に一体となって懸案の解決にあたらせる狙いがあると考えられる。また首相自身、厚相経験者で、安倍官房長官と長瀬甚遠官房副長官もともに厚生族議員だったことから、官邸主導で取り組む方針とみられる。
新内閣が直面する政策課題について、担当大臣はそれぞれ意欲を示した。谷垣財務相は消費税引き上げの必要性を認めて07年の国会に法案を出すことを明言し、竹中総務相は「小さな政府担当大臣」と自らの役割を鮮明にした。また、与謝野経済財政相は喫緊の課題である政策金融機関の統廃合について「自民党が想像しているより進む」と発言した。だが、二階経済産業相は「経済財政諮問会議が何もかも取り仕切るのはいかがなものか」と小泉ブレーン主導の経済政策に疑問を示し、早くも不協和音が出そうな雰囲気だ。
下馬評にあがっていたいわゆる小泉チルドレンの初当選組からは、猪口邦子氏が少子化対策・男女共同参画担当相に抜擢されたのが目を引いたが、長年にわたり入閣が見送られていた当選9回の中馬弘毅氏が行政改革担当相、参院当選4回の沓掛哲男氏が防災担当相として初入閣した。しかし、旧堀内、山崎、高村の各派閥には強い不満が残ったのは、こうした従来型の人事にもかかわらず、自派からの入閣がゼロだったからだ。留任した武部勤幹事長に直接文句を言ったり、会見で不平不満を露わにした幹部がいた。
小泉改造内閣について、かつて細川内閣で首相秘書官を務めたこともある成田憲彦駿河台大学副学長(日本政治論)は、「今回の人事のテーマは王朝の継承。大切なことは、継承の規準、つまり継承者が何によって正統性を付与されるかというと、王朝への忠誠心と結束力だ。小泉首相は、改革を政権継承の正統化原理に仕立て上げ、忠誠度が測られた。かつては、前政権で軽視されたり、実現されなかった政策テーマを目指す者に政権が受け渡される『振り子の論理』が継承原理だった。自民党50年の歴史の中では特異なことだ」と、今回の特徴を指摘している(読売新聞11月1日付)。
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