11月3、4日の両日、1年ぶりで開かれた政府間協議は、焦点の拉致問題については何ら進展がみられなかった。しかし、日本側から、「拉致問題」、「核・ミサイルなど安全保障」、「植民地支配など過去の清算を含む国交正常化」の3つのテーマごとに協議の場を設けることを提案、北朝鮮側が持ち帰って検討することになり、協議の継続だけは担保された。
拉致被害者家族会への事情説明は恒例のことだが、今回は、国交正常化後に協議するはずだった清算問題が拉致問題と並行して協議される手順になったのに対し、家族会から「北朝鮮の時間稼ぎに乗せられるだけ。拉致問題が置き去りにされるのではないか」という疑念を抱いたことを前提にして行われた。冒頭の斎木審議官の発言は、政府の基本方針に変わりがないことを強調し、場合によっては経済制裁の発動もあり得るとの決意を示すことで、今後の交渉に理解と協力を求めたものだ。
北朝鮮が「拉致問題は解決済み」として店ざらしにしてきた政府間協議再開に合意し、さらに継続協議にも応じた背景には、北朝鮮を取り巻く国際情勢の変化と国内事情がある。ジュネーブの国連人権委員会(53カ国加盟)が4月に3年連続で北朝鮮非難決議を採択するいっぽう、EU(欧州連合)が日米両国とともに、拉致問題に「深刻な懸念」を表明する決議案を初めて国連総会に提出(2日)するなど、国際的な北朝鮮包囲網が形成されつつある。また、9月には中国の粘り強い説得で6カ国協議が再開、核兵器の廃棄を盛り込んだ共同声明が採択され、このなかで「平壌宣言に従って、懸案事項を解決」との趣旨が強調された。北朝鮮としては、拉致問題が人権侵害として国連総会で採択されるのをなんとしても避けたく、日本との協議を続けることによって、解決に前向きであることを各国に示したいという思惑がある。さらに、疲弊した国内経済を立て直すためには、日本からの経済支援が必須で、行き詰まりの打開を模索したいとの切迫した事情がある。その意味で「過去の清算」は彼らにとって大きなカードを切ってきたことになる。
日本は、生存している拉致被害者の即時帰国、安否不明者11人の真相究明、拉致実行犯の引き渡し――を要求したが、北朝鮮は、逆に過去の清算が先と迫った。実際、協議はいまや、補償金の額をいくらにするかに入っているといわれる。
北朝鮮は、日本がニセ物と断定した横田めぐみさんの遺骨のDNA鑑定に疑問を示し、依然として拉致問題についてはかたくなな姿勢を崩さなかったというが、この時期、韓国の拉致被害者家族会から、横田めぐみさんの夫が韓国から拉致された人物の可能性があるという新たな情報がもたらされた(7日)。
北朝鮮に対する経済制裁発動をめぐっては、安倍官房長官が2日、「誠意ある対応がなければ、いろいろなことを考えなければならない」と前向きな姿勢を示し、麻生外相も「なんとなく、ずるずるというのは望まない。対話と圧力という話が出てくるのは当然だ」と語った。
いっぽう、第5回6カ国協議は、9~11日、北京で開催。米国は日本、韓国とともに、北朝鮮が核廃棄に向けた措置と、その見返りの措置の双方を段階的に示す「核廃棄行程表」(ロードマップ)を提案した。核の廃棄と検証、経済協力・エネルギー支援、安全保障体制の3分野別の作業部会をつくるのがそれで、同時並行で議論を進めていくことにより、共同声明の実現に道筋をつけたい方針だ。これは「軽水炉の提供が先」と主張して譲らない北朝鮮が6カ国協議の枠から逃れないようにし、合わせて都合のいい部分だけを"食い逃げ"するのを阻止する狙いもある。
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