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この人の重大発言

写真 「耐震強度の構造計算書偽造への不安が広がっており、放置したら大変だ。今あるマンションは全部検査するようにしたらいい。お金がかかる分は国が予算化する」 (日本経済新聞11月29日付)
武部勤・自民党幹事長
(耐震構造設計偽造問題対策本部長)

11月28日、名古屋市内で講演し、26日の釧路市での講演で「悪者探しに終始するとマンション業界はつぶれ、景気がおかしくなる」と発言した真意について、業界寄りの発言ではなく、まず不安を取り除いて居住者対策を急ぐのが先、という意味だったと釈明した。


 姉歯秀次一級建築士によるマンション、ホテルの耐震強度偽造問題は、発覚した17日以降、偽造対象件数が当初の21件から36件に増加するとともに、元請けの設計事務所社長が自殺(26日)、川崎市が自治体として初めてマンション使用禁止命令を出し居住者の退去を勧告する(28日)など、深刻さを増している。偽造対象になったホテルの営業停止も全国に拡大した。29日には、衆院国土交通委員会が建築主ら関係者6人を招いて参考人質疑を行い、原因の究明や今後の対応策を質した。姉歯建築士は、体調不良を理由に欠席した。

 こうしたなか、伊藤公介元国交相(自民党住宅土地調査会長)が偽造公表前の15日に、建築主「ヒューザー」の小嶋進社長を国交省幹部に紹介して公的支援を求めていたことも25日に判明した。さらに直後の26日、釧路市内の講演で、武部勤・自民党幹事長が業界擁護の「悪者探し」発言を行った。これに対し、「自民党の信用にかかわる」(加藤紘一・自民党元幹事長)とか「建築確認のあり方を徹底的に検証する機会なのに本末転倒だ」(前原誠司・民主党代表)などの批判が相次いだ。

 武部幹事長のこの発言は、与党の耐震構造設計偽造問題対策本部の本部長だけに、きわめて軽率とみられた。冒頭の発言はこれを訂正する趣旨のものだが、この発言に先立って開かれた対策本部の初会合で、武部幹事長は、関係住民の希望に応じて耐震強度の検査を行い、その費用を助成する制度の創設を提案しており、これを踏まえたかたちだ。しかし、国交省は全マンションの検査には否定的で、与党では関係住民に限定した支援に乗り出す意向。いっぽう、自民党と公明党の与党税制調査会は、06年度税制改正で、建築物の耐震性を高める改修工事を行った個人の税負担(所得税と個人住民税)を軽減する「住宅リフォーム減税」の創設を盛り込む方針を固めた。

 衆院国交委員会の質疑において、参考人の答弁を通じて、(1)篠塚明・木村建設元東京支店長は、姉歯建築士に対し、鉄筋量を減らすように「言ったかもしれないが、法令順守の範囲内」と圧力をかけたことを示唆するいっぽう、架空の領収書づくりを頼み、浮かせた裏金を営業経費に充てたことも認めた、(2)指定確認検査機関の藤田東吾・「イーホームズ」社長は、10月27日に建築主の小嶋進・「ヒューザー」社長から事前に偽造を公表しないよう圧力をかけられた、(3)姉歯建築士の偽造の情報は1年前にあったが、大手検査機関の「日本ERI」社が隠蔽した(当の会社は否定)、(4)国交省は、藤田社長から偽造の情報を得ながら、民間同士で解決するよう指示していた、(5)小嶋社長は、瑕疵担保責任を認めたが、そのいっぽうで、姉歯建築士を正常な考え方じゃない方と批判し、計算書は神聖な公文書と判断したとして偽造への関与を全面的に否定、公表しないよう圧力をかけたことも否定した――といった点が明らかになった。テレビ中継された質疑では、総じて責任の押し付け合いが目立ち、倒壊の危険を抱えたマンション住民はもとより、耐震構造の検査済みの全国のマンション住民に不安を与えることになった。

 今回の耐震偽造問題について、石原慎太郎・東京都知事は、25日の会見で「恥も外聞もなく、金のために、はかりあって危険な建物を建てて顧みない。日本が有数の地震国だということは、建築家なら知っているわけだ。本当に人が死んだら殺人幇助になる」と批判した(東京新聞11月26日付)。また、悪徳商法被害者対策委員会の堺次夫会長は、「規制の撤廃・緩和による米国型の新自由主義政策で『勝ち組』に入るための効率主義だけが目立つようになった。『官から民へ』の掛け声にしても、せめて人間の生命と安全に関する部分、たとえばマンションの耐震構造の確認検査などは『官』が責任を持つことではないか。建築構造の知識など持っているはずもない被害者に自己責任という言葉はむご過ぎる」(毎日新聞11月28日付)と規制緩和の問題点を挙げた。



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