12月6日、耐震強度偽装問題について、国土交通省は、姉歯秀次一級建築士を建築基準法違反で警視庁に刑事告発するいっぽう、被害にあったマンション住民らに対する公的支援策を決めた。「国民の不安を払拭するため、スピード感ある対応策を図る」(安倍官房長官)という理由から、震度5強の地震で崩壊の危険に直面する東京、神奈川の分譲マンション7棟(いずれも売り主はヒューザー社)の住民救済策として、マンション解体費用を国(45%)と自治体(55%)が分担して全額拠出するほか、自治体が買い取り、建て直して再分譲すること、建て替え費用の共用部分の建設費3分の1の負担、公営住宅の家賃相当分の助成などを盛り込んだ。
しかし、一方では、こうした公的支援のあり方、とりわけ肝心の民間業者の責任追及、つまり売り主が10年間負うべき無過失責任(瑕疵担保責任)を明確化させないまま税金を投入することについては批判が強い。冒頭の石原知事発言は、こうした行政サイドの懸念を示したもので、石原知事は、「あんな大きいところに住んで、おれたちはあの半分のうちにも住んでいないと、ものすごく反発する人もいる」とも語った。実際、被害者の住民のなかにはスペースが狭いという理由で代替えの公営住宅に申し込まない人が多数いるという。また、石原知事はテレビ出演して「5カラットのダイヤが100万円で買えるわけないでしょう」と指摘し、まず住民が売り主に補償を求めるのが先で、国や自治体など行政の責任追及はその後だとの見解を示した。
国交省の今回の支援策により、約80億円が05年度補正予算に計上されるが、財務省はこれ以上の支援拡大には慎重な構えだ。というのも、私有財産に起きた問題に対し国や自治体が税金を使うことへの疑問があり、公的支援した結果、場合によっては、国が財産の価値を高めることになり、著しく公平性を欠く恐れが生じるからだ。自然災害以外のケースで今度のような公的支援をするのは極めて異例で、政府は、代位弁済で一時負担するとして、問題物件に関与した業者には後から費用を請求することにしているが、倒産などにより回収不能となる事態が十分予想できる。
都心周辺の好立地で100平方メートルを超すマンションが4000万円台では安すぎる――飛びついた消費者にも責任の一端はあるという意見もあるが、今回の強度偽装問題の責任の多くは、第一に危険な建物を売りつけた売り主にあり、もうひとつは偽装された建築確認申請をとおした自治体、そして建築確認申請を規制緩和の一環として民間に開放し、ずさんな仕事をする検査機関を指定した国にある。国がお墨付きを与えた責任は逃れようもない。
「居住者や近隣住民の安全を考えると、緊急性と公益性は強い。建築確認という公の事務で重大な見落としがあった。民・民の問題と割り切ることはできない」(北側国交相)というのが公的支援に踏み切った理由だ。具体的には、「耐震改修促進法」に基づく「地域住宅交付金制度」を活用して、転居費用や家賃の減免、解体、建て替え費用の補助を行うほか、マンションの固定資産税、都市計画税の減免、ローン返済の3年繰り延べなどを打ち出した。
こうした公的支援策を後押ししたのは、最高裁がさる6月、「民間検査機関が行っている建築確認手続きは自治体の事務とみなす」との初めての判断をしたことや、横浜地裁が11月に「検査機関に故意や過失があった場合、確認の権限を持つ自治体が賠償責任を持つ」とさらに踏み込んだ判断を示したことだ。ただ、経済同友会の北城恪太郎代表幹事は、「それぞれの責任を追及することが重要。企業だけでなく経営者を含めて負担を求めるようにしないといけない。なにかあると、すぐに政府や自治体というのでは、モラルハザード(倫理観の欠如)を招く」と注文をつけている(東京新聞12月7日付)。
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