前原誠司民主党代表は、代表になって初めての外国訪問先に、米国と中国を選び、米国での講演(12月9日)で外交・安全保障政策「前原ビジョン」を発表した。このなかで、中国が国防予算を毎年10%以上、17年連続で増加させ、空軍力、海軍力、ミサイル能力を飛躍的に向上させていることをあげて、「軍事力の増強と近代化は現実的脅威だ」と発言した。これは、「軍事力増強を注目していく必要がある」として、中国を潜在的脅威とみなす政府見解を上回る踏み込んだ発言で、中国側が強く反発したのはもちろん、民主党内からも「誤解を招く問題発言だ」との批判が出た。
前原代表は、このほかシーレーンの防衛強化や集団的自衛権の行使のための憲法改正にも言及した。この前原発言の直後、横路孝弘衆議院副議長は、「自民党と民主党は、カレーライスとライスカレーのように、名前は違うが中身は何も違わないことになり、次の衆院選で負けてしまう。日本の経済活動を軍事力で守っていくという発想だ。アジアの中の日本が周辺国との友好を考えないでどうするか」と反論(12月10日)した。また、こうした考え方では小沢一郎前副代表や菅直人元代表とも一致していると強調し、冒頭の発言は事実上、前原代表の交代を求めた求めたものと受けとられた。旧社会党系議員や、護憲派の若手議員らでつくる「リベラルの会」も、横路氏同様、前原発言に反発し、独自の外交・安保ビジョン案をとりまとめる一方、9月の代表選で対抗馬を擁立する準備を始めた。
これらの動きに対し、前原代表は、15日のテレビ出演で「旧党派の寄り合い所帯の欠点を解消しなければ、有権者の信頼を回復できないし、政権はとれない」と強調、同時に「党内をまとめきれなければ、代表であり続けることはできない」として、基本政策で意見集約ができなければ代表選に出馬しない考えを明らかにした。こうしたなかで、小沢前副代表は14日、「私で勝てるというなら、責任は回避しない」と代表選出馬に意欲を見せた。前原発言は、代表の進退問題を含めて、がぜん波乱の様相を見せ始めた。
民主党は、もともと憲法や外交・安保政策といった基本政策の違う、旧社会党から旧自由党までの政党出身者が集まってできた党で、結党時(96年9月)から選挙互助会的な性格がぬぐえきれなかった。このため、対立がこのまま続けば、党内の基本政策の違いが顕在化し、分裂という抜き差しならないところまで進むのではないかという危機感が生まれ始めている。
前原代表をめぐる対立は、松下政経塾出身者や若手、旧民社党系、鳩山由起夫幹事長グループら保守・中道系議員が前原発言を支持しているのに対し、旧社会党系や菅グループの左派・リベラル系議員が反対、小沢グループの保守系議員がやや批判的な立場をとっているという構図だ。昨年9月の代表選は、前原票96対菅票94と、2票差だったことを考えると、形勢は小沢グループがどう動くかで決定するとみられ、今後の動向が注目される。
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