今週の必読・必見
日本を読み解く定番論争
日本の論点PLUS
日本の論点PLUSとは?本サイトの読み方
議論に勝つ常識一覧
執筆者検索 重要語検索 フリーワード検索 検索の使い方へ
HOME 政治 外交・安全保障 経済・景気 行政・地方自治 科学・環境 医療・福祉 法律・人権 教育 社会・スポーツ
この人の重大発言

写真 「原因究明や再発防止策の報告を米国に求めている。その中身に私たちが納得しなければならない。我々がそれを見て輸入再開を判断する。改めて米国産牛肉のリスクについて食品安全委員会の評価が必要だとは考えていない」 (読売新聞1月23日付)
安倍晋三官房長官

1月23日、米国産の輸入牛肉からBSE(牛海綿状脳症)対策で除去が義務付けられている背骨が見つかり(20日)、再び輸入を全面禁止したことについて、記者会見し、遺憾の意を表明するとともに、輸入禁止の解除の条件を明らかにした。


 昨年12月に米国産牛肉の輸入が再開されてから1カ月足らずのうちに再び全面禁止に鳴りそうだというのは、当初から懸念されていた。というのも内閣府の食品安全委員会は、再三にわたる米国側の輸入再開要求を背景に、昨年10月に「脳や背骨などの特定危険部位を除去した生後20カ月以内の牛肉ならば」という条件付きで輸入を許可した経緯があるからだ。

 特定危険部位とは、BSEの病原体である異常プリオンたんぱく質が蓄積しやすい場所で、脳や背骨、小腸の一部、眼球などのこと。人が食べると感染の恐れがあるため、食品衛生法で禁止されている。日本では、生後に関係なく食用になる牛肉はすべて特定危険部位は除去、焼却しているのに対し、米国では、除去するのは自国内向けは生後30カ月以上のみ。日米間で二重基準(ダブルスタンダード)が生じていた。

 輸出元の会社(ニューヨーク)によると、背骨付きの牛肉は生後4カ月の子牛で、日本向けの輸出安全基準を取り違えていたと釈明した。米農務省は、安全基準を徹底させるため食肉処理施設を限定する「認定制度」を採用したが、この会社の認定をただちに取り消す一方、検査官自身も安全基準を知らなかったという事情があったことを踏まえ、再教育の実施や全施設の再点検など12項目の検査強化対策を打ち出した。また、来日中のゼーリック国務副長官は23日、小泉首相、麻生外相、安倍官房長官らと個別に会い、「受け入れることのできないミスだ」と謝罪した。

 12月の再開後これまでに約1500トンの米国産牛肉が輸入されているが、農林水産省は、危険部位がついた牛肉が検査をすり抜けた可能性はほとんどないとしている。米国の食肉業界では「手続き上の違反であり、安全性の問題ではない」として、早期の輸入再開を求めているが、政府としては、再発防止策の内容と実効性を見極めないうちは、安易に再開に踏み切れない、との空気が支配的で、冒頭の安倍発言はそれを意識したものだ。

 今回の輸入再禁止は、03年12月以来2年ぶりの輸入再開に期待をかけていた外食業界やスーパーなど流通業界をがっかりさせたが、消費者の食の安全にかかわるだけに、再度の輸入再開までにきちんとしたチェック態勢がとられるよう望む声が強い。会合のため来日したペン農務次官は24日の会見で、「BSEのリスクは自動車事故よりはるかに低い。アメリカ人は大量のビーフを食べているが、健康被害の例は報告されていない」と、安全性を強調した。しかし、国民の中には、「日本が全頭検査から譲歩して輸入再開に応じたのに、約束を米国が破ったことになる。国と国との信義の問題で、そこに疑義が生じると、牛肉に限らず果ては安全保障関係に至るまで、信頼感を損なう」(ノンフィクション作家の吉永みち子さん・東京新聞1月22日付)と憂慮する声が強い。



関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2005年)バイオテロ、ブタの臓器移植…。文明の発達が新感染症を蔓延させる
山内一也(東京大学名誉教授)
(2005年)たとえ「裏切り者」のレッテルを貼られても、私はまた告発する
水谷洋一(西宮冷蔵社長)
(2004年)制限だらけの公益通報者保護――これでは内部告発は封じ込まれてしまう
森岡孝二(関西大学経済学部教授、株主オンブズマン代表)
(2003年)これだけ飽食しておいて食の信頼が裏切られたと叫ぶのは責任転嫁である
山下惣一(作家)
(2002年)予測できた狂牛病発生――英国に学ばず、危機管理を怠った罪は重い
山内一也(日本生物科学研究所主任研究員・理事)

議論に勝つ常識
(2005年)[新型感染症についての基礎知識]
なぜ新たな感染症が次々と発生するのか?
(2005年)[内部告発についての基礎知識]
公益通報者保護法は内部告発をしやすくするか?
(2004年)[内部告発者保護についての基礎知識]
内部告発者が欧米並みに扱われるのはいつか?
(2003年)食の安全についての基礎知識
[基礎知識]食品の不当表示を見分けるポイントとは?
(2002年)狂牛病についての基礎知識
狂牛病禍はどこまで拡大するのか?



バックナンバー


▲上へ

Copyright Bungeishunju Ltd.