昨年12月に米国産牛肉の輸入が再開されてから1カ月足らずのうちに再び全面禁止に鳴りそうだというのは、当初から懸念されていた。というのも内閣府の食品安全委員会は、再三にわたる米国側の輸入再開要求を背景に、昨年10月に「脳や背骨などの特定危険部位を除去した生後20カ月以内の牛肉ならば」という条件付きで輸入を許可した経緯があるからだ。
特定危険部位とは、BSEの病原体である異常プリオンたんぱく質が蓄積しやすい場所で、脳や背骨、小腸の一部、眼球などのこと。人が食べると感染の恐れがあるため、食品衛生法で禁止されている。日本では、生後に関係なく食用になる牛肉はすべて特定危険部位は除去、焼却しているのに対し、米国では、除去するのは自国内向けは生後30カ月以上のみ。日米間で二重基準(ダブルスタンダード)が生じていた。
輸出元の会社(ニューヨーク)によると、背骨付きの牛肉は生後4カ月の子牛で、日本向けの輸出安全基準を取り違えていたと釈明した。米農務省は、安全基準を徹底させるため食肉処理施設を限定する「認定制度」を採用したが、この会社の認定をただちに取り消す一方、検査官自身も安全基準を知らなかったという事情があったことを踏まえ、再教育の実施や全施設の再点検など12項目の検査強化対策を打ち出した。また、来日中のゼーリック国務副長官は23日、小泉首相、麻生外相、安倍官房長官らと個別に会い、「受け入れることのできないミスだ」と謝罪した。
12月の再開後これまでに約1500トンの米国産牛肉が輸入されているが、農林水産省は、危険部位がついた牛肉が検査をすり抜けた可能性はほとんどないとしている。米国の食肉業界では「手続き上の違反であり、安全性の問題ではない」として、早期の輸入再開を求めているが、政府としては、再発防止策の内容と実効性を見極めないうちは、安易に再開に踏み切れない、との空気が支配的で、冒頭の安倍発言はそれを意識したものだ。
今回の輸入再禁止は、03年12月以来2年ぶりの輸入再開に期待をかけていた外食業界やスーパーなど流通業界をがっかりさせたが、消費者の食の安全にかかわるだけに、再度の輸入再開までにきちんとしたチェック態勢がとられるよう望む声が強い。会合のため来日したペン農務次官は24日の会見で、「BSEのリスクは自動車事故よりはるかに低い。アメリカ人は大量のビーフを食べているが、健康被害の例は報告されていない」と、安全性を強調した。しかし、国民の中には、「日本が全頭検査から譲歩して輸入再開に応じたのに、約束を米国が破ったことになる。国と国との信義の問題で、そこに疑義が生じると、牛肉に限らず果ては安全保障関係に至るまで、信頼感を損なう」(ノンフィクション作家の吉永みち子さん・東京新聞1月22日付)と憂慮する声が強い。
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