今回の防衛施設庁談合事件は、発注側の防衛施設庁が天下り先の確保のために、受注予定業者をあらかじめ決めるという典型的な官製談合だった。官製談合とは、公共工事の入札の前に、発注側の国や地方自治体の職員が受注側に内部情報を漏らすなどして、入札価格の調整や受注企業の選定に関与するというもの。いうまでもなく公共工事に支出される金は税金だ。国民は高い買い物をすることになる。2003年1月、「官製談合防止法」が施行され、公取委が、発注者に改善措置を求め、損害賠償請求の検討ができることになったが、罰則規定もなく、強制力がないのが弱点だ。
この法律が施行された後も、官と企業がもたれ合う官製談合事件は跡を絶たず、昨年5〜8月には日本道路公団の副総裁(いずれも当時)が鋼鉄製橋梁工事をめぐる談合事件で逮捕されたばかり。公正取引委員会は、検察庁の協力を得て、こうした官製談合の摘発に精力的に取り組んでいるが、今回の摘発のきっかけになったのは、新東京国際空港公団(現成田国際空港会社)の談合事件だった。
防衛庁では、1998年、調達実施本部の幹部が装備品の調達の際、やはり背任事件に関与し、当時の長官だった額賀福志郎衆院議員が引責辞任、同本部は01年1月に解体されている。額賀長官は記者会見でこの過去に触れ、「防衛施設庁は、調達実施本部の背任事件を自らの問題として消化していなかったことをまざまざと見せつけた。怒りさえ感じる」と述べた。
防衛庁の外局である防衛施設庁は、全国にある自衛隊駐屯地や米軍基地施設の土地取得や建設、維持などを担当しており、職員約3100人の約45%は技官が占める。年間5000億円を超す予算のうち、地元住民のための住宅防音工事など基地騒音対策、施設建設費は約2000億円におよび、これら巨額の工事発注の仕事は、建設部の技術系職員が一手に握ってきた。
今回の官製談合(04年11月から05年3月にかけて)には、長官、次長に次いで防衛施設庁のナンバー3の地位にある技術審議官と建設部長、建設企画課長の技術系3人が関与していた。3人は受注側の空調工事メーカーに天下った施設庁OBを通じ、自衛隊中央病院と市ヶ谷本庁舎の工事3件を細かく割り振った「配分表」を業者に作成させて談合を取り仕切り、3共同事業体(JV)、9社に合計34億6600万円の発注を行っていた。工事の割り振りは、受注企業の天下りの受け入れ人数や給料、待遇、天下る前の退職時の役職などを基準に決めていた。案件ごとに「チャンピオン」と呼ぶ本命の受注業者をまず決定し、「連絡役」のOBが、業者側の意向を汲んで設定した落札予定価格に基づき、各社ごとに入札額を指示するというシステムだ。建設部で継承されてきたといわれる。空調工事メーカー9社は天下り受け入れの見返りとして受注していたわけで、こうした談合によって割高の受注がなされ、国民の税金がそれだけ無駄遣いされたことになる。
額賀防衛庁長官は31日、ただちに調査委員会の設置を決め、再発防止策を検討する第三者の委員会の設置を明らかにした。いっぽう、野党側は、8年前と同様、監督責任を厳しく追及する構えだ。政府は、官製談合防止法の改正で新たな刑罰規定を創設するなど強化策の検討に着手した。しかし、この事件は、目下ヤマ場を迎えている米軍基地の再編をめぐって、自治体とのパイプ役を施設庁職員が務めていることもあって、今後自治体との調整に大きな影響が出そうだ。東京地検特捜部は同日、施設庁の土木建築工事でも談合が繰り返された疑いがあるとして、大手ゼネコン(総合建設業)3社の家宅捜索を行ったが、この事件の展開によっては、今国会で成立を目指している防衛庁の省への昇格も微妙な雲行きになった。
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