もう一つ、より大きな問題は農村に潜在する膨大な失業者群である。中国の農村労働力は二〇〇一年においてほぼ五億人である。このうち一億六〇〇〇万人以上が潜在失業者だというのが、中国の権威あるシンクタンク・社会科学院の推計である。日本総合研究所の推計では一億七〇〇〇万人前後である。WTO加盟により中国の農業は世界のアグリビジネスとのグローバル競争の下におかれることになるが、競争力をもつ農産物はほとんどない。失業した農民は就業の場を求めて沿海部都市に向かって流動していくであろう。 中国の二〇〇〇年の人口調査によれば、流動人口は一億二〇〇〇万人を超え、そのうちの三五パーセント、すなわち四二四三万人が省間流動者である。 主流は中部諸省から沿海部諸省への流動である。流出人口比率の高いのは安徽省、湖南省、江西省、河南省、湖北省であり、流入人口比率が高いのは広東省、浙江省、上海市、江蘇省、福建省である。現在の中国においては省間の所得格差は著しく大きく、最高の上海市と最低の貴州省との一人当たり所得格差は実に一四倍である。 冒頭に私は、今後二〇年にわたる七・二パーセント成長は現在の中国が政治的に許容しうる最下限の成長率だ、と記した。確かにそうである。再び日本総合研究所環太平洋研究センターの推計を紹介する。 この推計は、今後二〇年にわたり七・二パーセントの成長率が持続すると仮定し、それが生み出す新規の労働需要の増加数を算出する。次いで国連による二〇二〇年にいたる中国の人口増加推計を用いて新規の労働供給数を割り出す。後者から前者を差し引いた数値がネットの労働供給増加数である。これがプラスであれば失業者数は増大し、マイナスであれば失業者数は減少する。 二〇〇一年末現在の都市失業者と農村潜在失業者を合計した失業者総数は二億一三四万人であるから、これにネットの労働供給増加数をプラスして将来の失業者数を推計する。 推計された失業者数は、二〇〇五年末で二億二〇四二万人、二〇一〇年末で二億二六三九万人、二〇一五年末で二億二五二九万人、二〇二〇年末でなお二億一六二四万人である。かりに七・二パーセントという超高成長を今後二〇年間維持するとしても、失業者数は二〇二〇年まで一年たりとも二億人を下回ることはないのである。
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