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論 点 「定年を延長すべきか」 2005年版
能力ある高齢者にもっと仕事を。年齢差別禁止法が日本を救う
[定年延長についての基礎知識] >>>

わだ・ひでき
和田秀樹 (精神科医)
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▼対論あり

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昔の五〇代に匹敵する今の七〇代
 日本もいよいよ、六五歳以上高齢者の割合が二〇パーセントを突破する超高齢社会に突入する。さらに、二〇〇三年(平成一五年)人口動態統計によると、一人の女性が一生のうちに産む「合計特殊出生率」は一・二九と史上最低となることがわかり、支える側の人口比率の低下から年金・医療の財政の破綻は確実視されるし、労働力不足も深刻になると考えられている。しかし私は、日本が今後の超高齢社会を乗り切れるか否かは、むしろ高齢者をいかに有効活用するかにかかっていると考えている。
 それは、高齢者を専門とする精神科医の立場から、高齢者の若返りや能力の高さを痛感しているからだ。高齢者の能力は、一般に考えられているよりもはるかに高い。
 以前、東京都老人総合研究所が、東京のベッドタウン小金井市で七〇歳の高齢者を一五年間追跡調査したことがある。調査開始時点で平均年齢七〇歳を超える高齢者の知能指数は、高齢になっても保たれるとされる言語性IQのみならず、高齢になると衰えるとされる動作性IQでも平均一〇〇を超えていた。一〇年後の追跡調査でも、言語性IQは一〇〇を超えていた。八〇歳、九〇歳を超えた高齢者が「文藝春秋」のようなレベルの雑誌を愛読するのも納得できる話である。歩行能力や諸臓器の能力においても、高齢者は実用機能では問題ないということがわかってきている。
 実際、現代の高齢者は若い。渥美清さんが六八歳で亡くなった際「あんなに若いのに」と悲しまれたが、たとえば高倉健さんだって七〇歳を超えているように、今の七〇代は昔の五〇代に匹敵するといって過言ではない。


平均寿命と合わない六〇歳定年制度
 日本の高齢者のもう一つの特徴は、労働意欲の高さだ。
 日本は、主要先進国のなかで、高齢になっても働きたい人の割合が群を抜いて高い。一九九八年の統計で比べてみると、六五歳以上の労働力率(労働の意思と能力をもつ人の割合)は三五・九パーセントで、フランスの一・六パーセント、ドイツの四・五パーセント、アメリカの一六・五パーセントなどと比べると、いかに高いかがわかる。実際、フランスの労働組合などは定年年齢の引き下げを求めているほどなのだ。
 だからこそ、高齢者が高齢になっても働き続ける社会環境を作ることができれば、年金の支給開始も遅らせることができるし、労働力不足も解消できる。
 そこでまず考えられるのが、定年延長である。もともと定年退職という制度は、高齢になった人を労働から解放してあげるという精神で始まり、その後の生活は年金で保障するというものであった。しかしドイツのビスマルクがこの制度を始めた際には、平均寿命も定年もおよそ五〇歳で均衡していた。つまり、平均寿命まで生きたのだから、労働から解放して働かなくても食べていけるようにしてあげるというのが、定年制度の意義であり、年金開始の理由であった。
 いまのように男性の平均寿命が七〇代後半の時代に、定年が六〇歳というライフプランに合わせて年金制度を構築するのは、時代錯誤ともいえるのである。
 しかしながら日本の場合は、終身雇用のみならず、年功序列の賃金体系が長らく採られていたので、定年延長は高コスト労働者を大量に抱え込むことにつながる。公務員を想定すれば、これはますます高い税負担を国民に強いることになる。すると、いったん定年という形で退職し、その後、能力に応じた適正な賃金で高齢者に労働市場に参入してもらうというほうがはるかに妥当ということになる。
 ところが日本では、嘱託などの形で会社に残ったり、子会社などへの就職が斡旋(あっせん)されない限り、高齢という理由だけでほとんどの求人から除外される。つまり、定年間際は一般労働者よりはるかに高い賃金をもらえるのに、いざ定年になると、一般の労働者よりはるかに安い賃金のお手伝い程度の単純労働しか残されないというパラドックスが生じてしまうのだ。


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論 点 「定年を延長すべきか」 2005年版

対論!もう1つの主張
老害が日本をダメにする――世代交代こそが最大の雇用対策だ
荒谷紘毅(東京商工リサーチ情報事業統轄本部取締役本部長)


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わだ・ひでき
和田秀樹

1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。88年より日本でも数少ない老人専門の総合病院である浴風会病院に勤務。そのときの経験から、老人医療の間違った常識とお粗末な現状を問題提起した『老人を殺すな!』が話題になり、以後、高齢者問題をライフワークの一つとする。現在は国際医療福祉大学教授、川崎幸病院精神科顧問。『間違いだらけの老人医療と介護』『わがまま老後のすすめ』『50歳からの活力人生』のほか心理学、ビジネス、教育論、勉強法などの著書多数。



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