*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
韓国の宗教団体「摂理」が問題になっている。教祖の鄭明析(61)は、韓国の女性信者に対する強姦容疑で国際手配されて逃亡中だが、日本の女性信者も性的暴行を受けていたことが明らかになった。被害を受けた元信者たちは、準強姦罪で鄭教祖を告訴する準備に入った。
摂理の活動歴は意外に長い。日本では、統一教会やオウム真理教などの陰に隠れて目立たなかったが、国内で活動を開始してすでに20年が経つ。かつて統一教会の信者だった鄭教祖は、日本で2000人以上の信者を獲得した。有名大学のキャンパスに潜入した信者たちが、スポーツや文化系のサークルを装って勧誘していたのである。
活動が本格化したのは10年ほど前からだ。信者はマンションの一室で共同生活し、教祖の指示による信者同士の合同結婚式が毎年開かれた。これらは統一教会の手法を真似たのだろう。さらに教祖の鄭は、“健康チェック”と偽って、気に入った女性信者に対して猥褻行為をくり返していた。摂理の資金源は、信者による献金だ。就職すると、収入の1割を献金しなければならない。中には、1000万円以上献金した信者もいるという。
カルト教団は、これまで社会に様々な軋轢をもたらしてきた。統一教会は違法な霊感商法で糾弾された。オウム真理教(現・アーレフ)は地下鉄サリン事件などの凶悪犯罪を起こした末に夥しい死傷者を出した。教祖の松本智津夫被告は、最高裁に特別抗告を棄却されると、死刑が確定する。それでも同教団は、松本被告への回帰を求める勢力と、影響を弱める勢力(上祐史浩代表派)とに分裂して活動をつづけている。そして今度は、摂理の教祖による性的暴行事件である。それにしても、有名大学の学生たちがなぜこうも怪しいカルト教団に騙されるのか。
信者の学生たちは当初、宗教団体に入信したという自覚はなかったはずだ。キャンパスで感じのいい美女や親身になって話を聞いてくれる先輩に声かけられ、あくまでもサークル活動だと思って入会している。勧誘は入口にすぎない。その後に待ち受けているマインドコントロールの篩(ふるい)にかけられ、残った者だけが信者になってゆく。
誰もが簡単に騙されるわけではない。摂理のようなカルトに勧誘されるのは、いつも決まっている。社会経験の乏しい18〜19歳の若者だ。高校時代は受験勉強に明け暮れ、遊び歩く仲間もいない。親や教師から見れば、手のかからない優等生タイプだ。カルトの信者は、そんな彼らの前に現れる。優しくて頼りがいのある先輩として……。
1年も経てば、摂理が世間の話題にのぼることはなくなるだろう。しかし、その間にも新たなカルトが台頭していることを忘れてはならない。口先ひとつで、何億もの金が集まり、美女をいくらでも侍らすことができるのだ。こんなビジネスはほかにない。新たな牙を磨いている“教祖”は、いくらでもいる。カルトは忘れた頃に、姿形を変えて有名大学のキャンパスに現れる。彼らは不良やニートは相手にしない。悪友のひとりもいない優等生タイプの若者はくれぐれも気をつけてほしいものだ。
(福本博文 ふくもと・ひろふみ=ノンフィクション作家)
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