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論争を読み解くための重要語
近未来通信事件
2006.12.07 更新
 12月4日、警視庁捜査2課は、インターネット・プロトコル(IP)電話会社の「近未来通信」(石原優社長、東京都中央区)を詐欺容疑で強制捜査をおこなった。「新時代の通信ビジネス」をうたい文句に、投資家にインターネット網と電話回線を結ぶ中継局のサーバー設置費を負担させ、電話利用者が払う通信料から配当すると宣伝、巨額の資金を集めた。しかし、サーバーの稼働の実態はほとんどなく、集めた金から配当金を払っていた。被害者は約3000人、被害総額は400億円にのぼりそうだ。同社は広告塔として、有名女優や元プロ野球選手をCMに起用、女子プゴルフトーナメントを主催するなど派手なPRを展開していた。

 2004年の改正電気通信事業法の規制緩和によって、自前では回線設備を持たない第2種の事業者は、住所、事業者名、サービス内容などを届け出するだけで、資金力や経営体制の審査なしで営業が許可されるようになった。近未来通信は1999年3月、一般第2種の電気通信事業者として総務省に届け出た。

 近未来通信は、「中継局オーナーシステム」と呼ぶ方法で投資家を募り、IP電話を束ねる通信サーバーを購入すると(最低1口1100万円)、電話の通信料からの配当(月60〜80万円)でもうかるという虚偽の説明をしていた。また、投資家が105万円払って代理店となり、別の中継局オーナーを勧誘すれば、紹介料など多額の報酬を得られる「エリアエージェント」というマルチ商法(連鎖販売取引)でも組織を拡大していた。

 被害が表面化して、総務省が立ち入り調査(11月27日)したところ、投資家が購入した123カ所の中継局と2466台のサーバーのうち稼働していたのは7カ所7台だけで、海外に12あるとされたサーバーも稼働はゼロだった。昨年7月期の売上高約181億円のうち、通信料は3億円。証券取引法や、マルチ商法を規制する特定商取引法は、商品やサービスを対象にしていて、今回のようなサーバーへの投資は規制の対象外。このため、8年間に被害は拡大していった。

 強制捜査を受けて、東京の3弁護士会有志でつくる「近未来通信被害対策弁護団」(団長=紀藤正樹弁護士)は4日、組織犯罪処罰法(組織的詐欺)の適用を警察当局に求めていくことを決めた。

 同様の通信サービスで投資家が損をしたケースに、通信ベンチャーの起業として注目された「平成電電」がある。割安な固定電話サービス「CHOKKA(チョッカ)」を打ち出し、投資組合をつくり「予定現金分配率10%相当」を売り物に、個人投資家約1万9000人から約490億円集めた。しかし、大手通信会社との競争激化で資金繰りが悪化、経営が破綻し昨年10月、民事再生法の適用を申請、倒産した。

 近未来通信事件の場合はこれと違って、かつて被害者3万人、約2000億円の被害を出した巨額詐欺事件、「豊田商事事件」(87年3月)とスキームが似ていると指摘されている。豊田商事事件は、金の販売名目で客に預かり証を渡し、金投資をしていると投資家に錯覚させるペーパー商法だったが、近未来通信もサーバーを投資家に見せていない点が共通している。

 総務省の調べによると、05年度末現在、通信事業者は1万3744社にのぼり、このうち約98%が届け出のみの第2種事業者だ。政府は近未来通信事件を重視し、今後は本業の通信事業サービスに問題がなくても、経営や財務に問題があれば、立ち入り検査や業務改善命令ができるよう、電気通信事業法の改正に取り組む方針だ。菅総務相は5日、「現行の業務改善命令は利用者保護に限定されているが、さらに幅広く類似の事件を防げるように検討を指示した」と会見で語った。



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