「嫌煙権」という言葉がいつの間にか死語になった。たばこを吸わないほうが多数派になったからである。
2002年6月には東京・千代田区が路上喫煙やポイ捨てに罰金を課す条例を可決して話題になったが、この春からは全国の公共機関で「全面禁煙」を掲げる動きが広がっている。5月1日から施行された「健康増進法」で、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設」の管理者に、受動喫煙の防止が義務づけられた。ただし、これは努力義務規定で、いまのところ罰則はない。
首都圏の大手私鉄は全面禁煙に踏み切り、駅構内から灰皿を撤去した。JRは長距離列車を抱えているため、あくまで「分煙」を継続。一方、国会議事堂では、「国会議員は率先して範を示すべきだ」という提案が民主党から出たが、喫煙派の多い自民党議員の抵抗が強く、全館禁煙にはならなかった。
「健康増進法」は、生活習慣病を予防するために食生活の改善や運動・休養のとり方などのモデルを示したもので、受動喫煙の防止はその一環。この法案を作成した厚生労働省のねらいは医療費の抑制にある。喫煙によって増加している医療費は約1兆3000億円だという。喫煙派にしてみれば「ほっといてくれ」といいたいところだが、受動喫煙の被害を持ち出されれば抗弁できない。
下記の対論は、現代史の論客が張った喫煙擁護の大論陣をエッセイの名手が見事にかわす洒脱な論争。まだ喫煙派が意気軒昂だったときの話だが、どちらの言い分にも大いに説得力がある。
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