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論争を読み解くための重要語
公的資金注入
2003.05.22 更新
 5月17日、りそなホールディングスへの公的資金注入が決まった。今回の注入は、預金保険法102条の適用第1号となる。

 過去、金融機関へ大規模な公的資金の注入が行われたのは、98年から99年にかけての2回。直接のきっかけは97年の金融危機だった。この年11月、三洋証券の破綻に始まった金融ショックは、北海道拓殖銀行、山一證券の破綻という大事件に発展、さらに第二地銀の徳陽シティ銀行の破綻を引き起こした。銀行の体力を回復させ、横行する貸し渋りを解消するには、大規模な公的資金の投入しか道はなかった。98年2月、国会で金融安定化法が成立、翌3月、大手18行と地銀3行に計約1兆8000億円が投入された。しかし、金融不安はおさまらず、半年後には長期信用銀行と日本債券信用銀行が破綻した。98年10月、金融早期健全化法を可決、翌年3月、これにもとづいて大手15行に対し再び計約7兆4000億円の公的資金が投入された。

 金融早期健全化法は2001年3月までの時限立法で、万が一のために導入されたのが、預金保険法102条にもとづいて公的資金を注入する仕組みである。金融早期健全化法が「健全」と認定された銀行の資本を補強するための法律だったのに対し、102条は、連鎖破綻や預金の大量流出が危惧されたとき、首相が金融危機対応会議を招集して公的資金の投入を決定する手順を定めた法律で、いわば「よほどの危機の場合」に備えたものだ。

 つまり、この時点では、2度にわたる資本注入によって不良債権は処理され、業界の再編も進むから、もう「予防的な注入」は必要ないだろうと思われていたのだ。しかし、信用収縮はおさまるどころか、水面下では加速していた。

 今回のりそなへの資本注入は、予想を完全に裏切った格好になった。まだ破綻していない金融機関に公的資金を入れる必要が生じたのである。

「予防的な注入」を可能にする仕組みが必要だという議論は昨年からあった。10月にまとめられた金融再生プログラム(いわゆる「竹中プラン」)でも、「金融機関が経営難や資本不足もしくはそれに類似した状況に陥った場合には、『特別支援』の枠組みを即時適用する」として、公的資金注入のための新法制定を視野に入れていた。しかし、法案が具体化する前に、今回のような事態に陥ってしまった。5月19日、金融庁はさっそく「予防注入」のための新法案の国会提出を急ぐ方針を固めた。

 りそなへの資本注入にいたる一連の金融危機・不良債権処理については、下記の論文・基礎知識にくわしい。なお、金融機関への公的資金注入問題の端緒となった住専(住宅金融専門会社)問題については、重要語検索の「住専問題」を参照されたい。



関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2003年)邦銀の合併・統合は組織防衛のためにすぎない。みずほ事件がその象徴
箭内 昇(アロー・コンサルティング主宰)
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(2002年)全邦銀の格付けが最低のいま、ペイオフ解禁はあまりに無謀である
リチャード・クー(野村総合研究所主席研究員)
(2002年)いま不良債権最終処理をためらえば日本は「衰退の一〇〇年」に突入する
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(2002年)不良債権は不況が原因。最終処理を進めれば、日本経済は破壊される
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(2001年)銀行の「多産多死」は避けるべき――異業種参入がはらむ三つの危険性
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(2000年)ペイオフの実施延期は金融機関と預金者を甘やかし対外威信も傷つける
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(1999年)銀行経営者のモラル欠如――それは必ず第二の住専問題を引き起こす
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議論に勝つ常識
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(1999年)住専以来の金融危機の責任の所在を探るための基礎知識
(1999年)銀行の使命と健全な経営とは何かを考えるための基礎知識



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