6月23日、超党派の国会議員で構成する「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」(代表世話人・武見敬三参院議員)は、核開発やミサイル発射実験による北朝鮮の脅威に対抗するため、「我が国に対する攻撃が切迫している時、最小限の敵基地攻撃能力を保有できる」とした緊急声明を政府に手渡した。
敵基地攻撃能力とは、敵が日本に向けてミサイルを撃つ前にその発射基地を破壊する能力のことで、これについては、専守防衛を国防の理念にしてきた自衛隊の行動範囲を大きく逸脱するのではないか、という批判があった。
6月6日に成立した有事三法のうち武力攻撃事態対処法では、「攻撃意図が推測され、攻撃発生の可能性が高い」場合、(1)予備役の招集、(2)軍事施設の新たな構築が例示されているだけで、具体的な防衛システムには言及されていない。議論は、こうしたあいまいな部分を補強しておこうというものだ。
1956年、当時の鳩山一郎首相が衆院内閣委員会で、「座して自滅を待つべしというのが、憲法の趣旨とするところとは考えられない」と答弁、法理論としては、「攻撃を防御するのに、他の手段がない」場合、敵基地をたたくのは自衛の範囲に含まれるとされてきた。ただし、このときは、ミサイルの脅威は現実化していなかった。
「若手議員の会」の声明をまとめたのは、安倍晋三、浜田靖一、前原誠司氏ら「新防衛族」といわれる議員たち。現在、日本に向け配備されたノドンミサイルの数は160〜170基とみられ、発射後1000キロ離れた日本本土に到達する時間は5〜7分。専守防衛だからといって、第一撃を甘受するわけにはいかず、防衛策としては発射前に基地をたたく以外にないというわけだ。同会のメンバーでもある石破茂防衛庁長官は、すでに、「ミサイルに燃料を入れ始めるとか、日本を標的にした行為に着手したとき」が敵基地を攻撃する目安になる、との考えを明らかにしている。
政府は、2004年度予算に地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)と、イージス艦搭載のスタンダードミサイル(SM3)の導入を盛り込み、2006年度に実戦配備を予定している。これは、敵のミサイルを大気圏の上層で迎撃するSM3と、地上付近の下層で撃ち落すPAC3の組み合わせにより、ミサイル防衛網の向上を図るもので、小泉首相がブッシュ大統領に協力を約束していた。
しかし、このMD計画に対しては、日米の軍事産業を潤すだけで、費用対効果の面からも疑問が多い(事実、アメリカは6月18日、SM3の迎撃実験に失敗している)という批判や、アジアの新軍拡競争を招くと指摘する声もある。
過去数年にわたるミサイル防衛論争については、下記の論文と基礎知識に詳しい。
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