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解散権
2003.07.17 更新
 解散風が吹き始めた7月10日、綿貫民輔議長は、法案審議への影響を懸念、自民党の山崎拓幹事長を呼んで解散権の乱用をつつしむよう求めた議長見解を手渡した。

 解散権とは、衆議院の全議員の資格を4年の任期満了前に失わせる権限で、総理大臣の専権事項とされ、「伝家の宝刀」ともいわれている。憲法では、第7条で「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために左の国事に関する行為を行う。(略)(3)衆議院を解散すること」と明記。また、第69条では、「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または、信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職しなければならない」と規定している。

 現在の衆議院議員の任期は、来年6月24日まで。在職期間の平均は約3年だから、いつ解散、総選挙があってもおかしくないというのが議員の正直な気持ちだ。小泉首相が、「任期1年を残すだけだから、誰でも解散に関心があるだろう」と発言(7月4日)、前夜の与党3党首会談もあって、「10月10日解散、11月9日投票」の政治日程が政界に広がり、いっきに解散への流れができた。

 綿貫議長の見解表明は、こうした事態を沈静化させるためだが、この見解は1978年に、当時の保利茂議長が、「保利見解」として示したものを踏襲している。その内容は、(1)主権者である国民から選ばれた議員の任期途中でその信託を打ち切る解散は重大なことで、内閣の都合や判断で一方的に行うべきでない、(2)憲法69条解散は、議院内閣制のもとで、立法府と行政府が対立し、国政がマヒするようなときに行政機能を回復させる一種の非常手段、(3)69条解散でなくても、同じような事態のときは憲法7条解散が容認されるべきだが、濫用は許されない――というものだ。

 戦後の総選挙は、これまで計21回行われたが、任期満了によるものは1976年12月、三木内閣のときだけ。不信任案の可決を受け、69条解散を行ったのは、1949年1月、1953年4月(吉田内閣)、1980年6月(大平内閣)、1993年7月(宮沢内閣)の4回ある。その他はいずれも7条解散だ。7条解散は、首相として随意な時期を選択し、主導権を握って有利な政治環境のもとで総選挙を断行することができるからだ。山崎幹事長が「首相が解散できないなら大変なことだ」と、解散権を縛ろうとする綿貫議長に抵抗した背景には、過去のこうした経緯がある。7月15日、小泉首相は、「解散権行使は、内閣が総選挙により衆議院における多数派を新たに形成することを通じて、国民から新たな委任(授権)を得るための手段である」との見解を公表した。

 「国会無視の勝手な解散権行使」という批判がつきまとう7条解散を、憲法上は可能と初めて定義づけたのは、憲法学者の宮沢俊義氏で、1948年のことである。その後、最高裁も合憲との判断を示し定着した。ただ、1986年7月、当時の中曽根首相は、違憲の恐れがある定数是正をしないままだと最高裁が選挙無効の判断を下しかねないと警戒し、定数是正を実現したうえで7条解散し衆参同日選挙に踏み切り、自民党を300議席台に乗せる大勝に導いた。



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