7月9日、国立大学に民間の発想や経営手法を導入するため、国の組織から独立法人へ移行する「国立大学法人法」が、国会で成立した。今後99の国立大学は、再編・統合され、来年4月からは89の国立大学法人となる。
国立大学の改革としては、戦後に新制大学が設置されたときと、大学紛争をめぐる混乱からの立て直しに次ぐ大きなものだ。そもそもは、1998年、政府の中央省庁改革推進本部が国家公務員の定数削減の一環として、約12万5000人いる国立大学教職員も削減対象とし、大学のスリム化を目指して独立行政法人化を打ち出したことが始まり。当初の案では、「独立行政法人通則法」に基づき、政策の企画立案機能と実施機能を切り離すものだったため、大学側と旧文部省が反対。独立行政法人ではなく、特例法として「国立大学法人法」を制定し、大学の自治や学問の自由に十分配慮することにした。
遠山敦子文科相が2001年6月、「国立大学の構造改革の方針」(遠山プラン)として発表した案をベースに、国立大学協会の意見などを取り入れてまとめたもの。(1)大学は独自の特色ある教育、研究について6年間の中期目標・計画を作成、文科相が最終決定する。(2)目標、計画の達成度の評価は、第3者機関の「大学評価・学位授与機構」と、「国立大学法人評価委員会」が行い、それをもとにして運営費交付金を文科省が支給する。(3)大学の運営は、重要事項を審議する「役員会」、経営面を担当する「経営協議会」、教育、研究をカバーする「教育研究協議会」の3者があたる。民間の声を反映させるため、役員会に最低1人の理事か監事を学外から起用、経営協議会も半数は学外者を充てることを義務づけた。(4)学長が全人事権を持ち、会計でも企業との共同研究で得た特許権収入などを利益として計上できるといった自由裁量を認める――が骨子となっている。
こうした国立大学法人化に対し、とくに地方の国立大学関係者は、地方文化を支える人材を育成するという役割が、大学間の競争激化により大都市の大学との格差が拡大することで失われていくと心配する。また、研究者の中には、「中期目標を定めるやり方では地道な基礎的研究がないがしろにされる」という不安をもつ人もいる。成果をあげることに汲々としてはかえって自主的な研究活動が阻害されるし、理系偏重になり人文・社会科学系の研究が切り捨てられる恐れがあるというわけだ。さらに、運営費交付金の配分権を持つ文科省の支配力が強まり、学外者の起用を利用して大量の官僚が天下りすると懸念する有識者もいる。
少子化の波が押し寄せるなか、各大学は独自色をどう出すかなど、それぞれ生き残り策を模索している。国立大学法人法が目指す、大学間の競争を促すことで教育、研究の活性化を図り、民間企業と連携することで、国際的にも通用するレベルに向上させようというのがその趣旨だが、現場との温度差は大きい。
国立大学法人化に至るまでの論争については、下記の論文と基礎知識に詳しい。さらに「大学改革」でも検索してみよう。
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