今週の必読・必見
日本を読み解く定番論争
文藝春秋編 日本の論点PLUS
日本の論点PLUSとは?本サイトの読み方
議論に勝つ常識一覧
執筆者検索 重要語検索 フリーワード検索 検索の使い方へ
HOME 政治 外交・安全保障 経済・景気 行政・地方自治 科学・環境 医療・福祉 法律・人権 教育 社会・スポーツ
知らないと恥をかく新語・新知識
アザデガン油田開発
2003.08.14 更新
日本は、中東最大級の推定埋蔵量(260億バレル)といわれるイランの未開発油田での開発契約の交渉を進めてきたが、その優先交渉権がこの7月末で期限切れとなった。これからは各国との競合になるが、産油国に投資を行い、共同開発することによって権益を確保するという、いわゆる「日の丸油田」は、これで2000年2月のサウジアラビア、2003年1月のクウェートに次いで権益を失うことになりそうだ。

 自主開発油田は、1973年の石油危機以来、石油の安定供給を目指す旧通産省、石油公団が進めてきた政策だ。1959年に発見され、1998年に公表されたアザデガン油田の開発については、イランの外資導入政策に応じたもので、2000年11月、来日したハタミ大統領と森首相が合意していた。しかし、クリントン政権時代に成立した米国の「イラン・リビア制裁強化法」が外国企業のエネルギー分野への投資を制裁対象としているため、米国務省はこの交渉に遺憾の意を表明した。ブッシュ大統領が2001年1月、イラク、北朝鮮とともにイランを「悪の枢軸」に加えたこともあって、大詰めを迎えた6月以降は圧力が強まり、「核開発やテロ支援が疑われる中で大規模な石油取引を進めるのは不適切で、同盟関係を傷つけかねない」との懸念が政府に伝えられ、結局、期限内にまとまらなかった。

 交渉締結に至らなかったのは、それだけでなかった。アザデガン油田はイラン南西部のイラク国境に近いため、油層を含めてイラクとトラブルになる可能性があること、また開発地域は1988年まで8年間に及ぶイラン・イラク戦争の主戦場で、いまも多数の地雷が残っていて、除去するには相当の費用がかかる。さらにガソリンや灯油が抽出できない重質油であることも交渉がまとまらない理由のひとつだった。結局、イランに内政が混乱する不安などカントリーリスクもあり、生産した原油の買い取り権が与えられるという契約内容からして、約5000億円の開発費を回収するのに時間がかかりすぎるというのが、交渉断念の大きな要因になった。

 日本のエネルギー供給は、30年前に比べ、石油が77%から49%に減ったのをはじめ、その分、天然ガスが2%から13%、原子力が1%から12%、石炭は15%から19%とほかのエネルギーにシフトしている。それでも、安い原油が大量に運べることから中東に石油輸入の88%を依存しているのが現状だ。今後、世界は二酸化炭素の排出量が少ない環境特性に優れた天然ガスへシフトしていく傾向にあり、わが国も供給の多角化を図るため液化天然ガスの輸入量(現在は年間5000トン)が増加しそうだ。

 わが国は、原子力を除いたエネルギー自給率が4%という資源小国だ。昨年6月に議員立法で制定された「エネルギー政策基本法」を受け、10年先を見通したエネルギー戦略を内容とした「エネルギー基本計画」づくりがいま進められている。基本計画は、安定供給と環境保全が2本柱だが、原発の将来が不透明なので、天然ガスの利用を積極的に打ち出すといわれている。液化天然ガスの調達先として注目されているのがサハリンで、現在約7億トンと見込まれる埋蔵量をめぐり日本企業が参加して二つの開発プロジェクトが進行しているが、この日・ロ共同プロジェクトが実を結ぶまでには乗り越えなければならない課題も多そうだ。



バックナンバー


▲上へ

Copyright Bungeishunju Ltd.