7〜8月にかけて行われた日米地位協定に関する実務者協議が難航、物別れの状態になっている。凶悪犯罪を犯した米兵の刑事手続きをめぐり、米側が取り調べの際の弁護人立ち会いや通訳の同席を要求しているのに対し、日本側は捜査の秘密が漏れる恐れがあると拒否しているためだ。
地位協定とは、在日米軍の円滑な活動を確保する目的から、日米安保条約6条に基づいて米兵、軍属、家族の地位や権利を規定したもので、本文28条と交換公文、議事録で構成されている。内容は、(1)施設、区域の提供、駐留経費の一部負担、(2)税金、規制の免除、(3)米兵らの身分――の規定に大別される。問題になっているのは、身分にからむ刑事裁判権(17条)だ。旧協定(1952年4月施行)は、米兵が犯罪を犯しても日本側に裁判権を認めない「属人主義」だったが、現行の協定(1960年6月施行)では、施設、区域外の犯罪は、公務を除き日本側が裁判権を持つ「属地主義」が取り入れられ、起訴前は米側が容疑者の身柄を拘束するが、起訴後は日本側に引き渡すことに改められた。
ところが1995年9月、米軍基地の75%が集中する沖縄県で、海兵隊員による少女暴行事件が発生、米側が容疑者の身柄引き渡しを拒否したことから、改めて地位協定が抱える不公平性がクローズアップされることになった。沖縄県民は8万5000人の抗議集会を開いたが、それは米軍用地の借用更新代理署名拒否の動きへと発展、日米の信頼関係を揺るがしかねなくなった。結局、このときは殺人、婦女暴行その他の凶悪犯罪の場合、米側は日本側の身柄引き渡し要請については起訴前でも「好意的考慮を払う」との運用改善をすることで日米合同委員会が合意し、事態収拾が図られた。
しかし、沖縄ではその後も米兵によるひき逃げ(1998年)、放火(2001年2月)、婦女暴行(同6月)と凶悪事件が相次いだにもかかわらず、95年合意の適用は3件と少なかったことから、運用改善でなく協定の条文改定を求める機運が再び高まり、今回の実務者協議が開かれることになった。協議では、米側は、自白の強要の恐れがあるとして尋問のやり方に人権侵害を指摘するなど、日本側の刑事手続きに不信感を表明したが、立ち会いの要求は捜査妨害につながりかねないと日本側は突っぱねている。
米国は1993年3月、ドイツとの地位協定を改定し、ドイツの国内法制の適用を原則とすることにしたほか、環境保護法令の尊重も規定した。また韓国との地位協定では、日米より遅れているが、殺人など12の犯罪について起訴後に身柄引き渡しを認めることに改める(2001年1月)など、協定そのものの改定に踏み込んでいる。日米地位協定の見直しについては、刑事裁判権のほか、犯罪被害者への補償、低空飛行訓練に伴う危険や騒音対策、基地、演習場の環境汚染対策などが課題としてあがっている。ただ安保条約の運用にからむ治外法権と領域主権の調整は避けて通ることはできず、見直しの方法については識者の間でも意見が分かれている。
地位協定に関しては、下記の論文が参考になる。
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