今週の必読・必見
日本を読み解く定番論争
文藝春秋編 日本の論点PLUS
日本の論点PLUSとは?本サイトの読み方
議論に勝つ常識一覧
執筆者検索 重要語検索 フリーワード検索 検索の使い方へ
HOME 政治 外交・安全保障 経済・景気 行政・地方自治 科学・環境 医療・福祉 法律・人権 教育 社会・スポーツ
論争を読み解くための重要語
「万景峰92」号
2003.08.28 更新
 8月25日、北朝鮮の貨客船「万景峰92」号が7か月ぶりに新潟西港に入港した。その後同船は、10年ぶりに実施された船舶安全性検査(PSC)によって5項目の是正命令を受け、改善計画を提出したのち26日夜、北朝鮮・元山港へ向け出港した。

 「万景峰92」号は、92年6月に就航した北朝鮮が保有する唯一の客船。在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が約35億円相当の資材を寄付して建造された船で、エンジンなどは日本製だ。全長126.13メートル、船幅20.4メートル、総トン数9672トン、350人の乗客を収容できる。船名は、故金日成主席の生家に近い山の名にちなんで付けられた。もともと「万景峰」号(初代)は、「祖国は楽園」というスローガンのもと59年12月からスタートした、在日朝鮮人の帰国事業のために建造されたもので、。2代目の「三池淵」に次いで3代目にあたる。いまは在日朝鮮人の祖国訪問や修学旅行、帰国した家族への物資の輸送に利用され、日本とは国交のない北朝鮮を結ぶ「ライフライン」といわれている。清津、元山―新潟間を約28時間かけて航行、年間20〜30回往復している。今回は、「建国節」(9月9日、55周年)に参加する祖国訪問団ら約200人と冷凍牛肉7トンをはじめ約60トンの物資が運ばれた。

 しかし、今年5月に、北朝鮮の元技師がミサイル部品の不正輸出に利用されたと米上院公聴会で証言したことで、「万景峰92」号のもう一つの顔が浮かびあがった。警視庁は昨年12月、これに関与したとして工作機械メーカーを摘発している。また93年から01年にかけて日本に潜入する工作員への指示が入港のたびに船内で行なわれていたことも判明。さらにこれまでに約1000億円が不正に運ばれていたことも関係者らの供述や証言でわかった。

 北朝鮮が今回、運航を再開した背景には、建国記念式典を控えて日本から物資を調達する必要があったからだが、拉致事件以来、動揺のみられる朝鮮総連を引き締める、核開発問題をめぐる6カ国協議開始前に処理したかった、など別の思惑もあるとみられている。

 どこの国も外国との貿易に使用される港は、「港湾法」や国際慣習によって貨物船、客船の自由な出入りを認めており、特定の船舶を狙い打ちにして入港を拒否することはできない。このため、北朝鮮に「圧力」を加えたい政府は、「海上人命安全条約」などの国際条約や国内法を総動員して、入港にともなう厳格な検査、審査の実施を決断、6月9日の同船入港から適用することにしていた。今回の入港では、「海上保安庁法」に基づいて海上保安官が船内に立ち入り、密輸品がないか積み荷を検査したり、これに税関職員、検疫職員、入国管理官が共同して立ち会ったり、また国土交通省運輸局の外国船舶監督官が、船舶の安全確保に必要な船舶自動識別装置(AIS)の有無や高速救助艇を設置しているかどうかなど調べるポートステートコントロール(PSC)を徹底して行なった。なお北朝鮮の貨物船は年間延べ1400隻が日本の各港に入港しており、今後もこれらの厳格な検査体制を続けることにしている。

 「万景峰92」号は、9月以降も3回の入港を予定するなど、今後も頻繁に往来を続けるとしているが、拉致被害者家族会や拉致議連は「政府が入港の便宜を図るのはおかしい。拉致問題が解決するまで入港を拒否し、経済制裁に踏み切るべきだ」と批判、再三の入港容認に疑問を指摘する声も出ている。厳格な検査以外にどんな圧力をかけることができるかがこれからの課題だが、政府は、「海上人命安全条約」が昨年12月に改正され、7月に発効したのを受け、「保安上の一定要件を満たしていない外国船舶については入港拒否もありうる」との規定を盛り込んだ国内法制定の検討を始めた。また、自民党有志議員で構成する「対北朝鮮外交カードを考える会」は、重大な侵害行為に関与した船舶の入港を阻止する「特定外国船舶入港禁止法案」素案を2月に作成している。



関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2003年)「北朝鮮崩壊=戦争勃発」説の無定見――性急な国交正常化は国益を損ねる
重村智計(拓殖大学国際開発学部教授)
(2003年)「民族主義」この厄介な荷物――カルト国家北朝鮮の犯罪を放置するな
関川夏央(作家、早稲田大学客員教授)
(2003年)真に拉致疑惑の解決を望むなら、国交交渉妥結の努力の中で懸案に接近を
和田春樹(東京大学名誉教授)

議論に勝つ常識
(2003年)拉致問題と日朝国交についての基礎知識
[基礎知識]拉致事件の被害者はいったいどのくらいいたのか?



バックナンバー


▲上へ

Copyright Bungeishunju Ltd.