9月5日、タイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)財務相会議は、採択した共同声明のなかで、中国の通貨である人民元の切り上げ問題について、当面は固定相場制の維持を認めながらも「将来的に切り上げが必要」との認識を初めて盛り込んだ。
1949年2月の新中国発足から使われている人民元は、現在、為替相場は市場に任せ、必要に応じて中央銀行である中国人民銀行が介入する「管理フロート制」という為替制度を採用している。しかし、ここ数年は1ドル=8.2760元〜8.2800元というごく狭い変動幅で抑えられていて、米ドルに対して、変換比率を一定した固定相場とほぼ同じかたちになっている。85年ごろは実勢レートで2.9元程度、90年には5元となり、94年から公定レートに一本化された。
人民元の為替レートが実態に見合わない安さだと問題視されるようになったのは、改革・開放路線の宣言以後、いわゆる社会主義市場経済が90年代後半から急速に発展を遂げたためだ。国内の豊富で安価な労働力を武器に輸出を伸ばし、いまや「世界の工場」と言われるほどの経済力をつけてきた。一方、為替レートの有利さが追い風となり、貿易黒字幅を増大させている。このため、安い中国製品の輸入で国内企業が圧迫されている米国と日本を中心に「中国はデフレを輸出している」として、人民元を切り上げるか、変動相場制へ移行とするか、どちらかで為替レートの是正を迫っている。
世界貿易に中国が占めるシェアは2002年度で5%と10年前の3倍。中国の外貨準備高は今年6月末で3465億ドル、日本に次いで世界第2位だ。日本貿易振興会(JETRO)の「貿易・投資白書」(2003年版)によれば、日本の輸出相手国は、戦後初めて米国を抜き中国がトップになった。輸出額は399億ドルで、対前年比28.2%増、輸入も4年連続の増加で617億ドル、同6.2%増だった。これは、日本の自動車、ハイテク企業などが中国に生産拠点を移す国際分業体制が進み、原材料や部品を輸出し製品を輸入する貿易が急増したことによる。しかし、日本にとって為替レートの変更はメリットばかりとは言えない。人民元の切り上げは中国製品の輸入拡大で痛手を受けている国内企業を保護する反面、人民元切り上げで中国からの輸出価格が上昇し、中国経済に打撃を与える結果、日本からの進出企業が不利益をこうむることもある。
中国側は、人民元切り上げが国際競争力の低下に直結することから、いまのところ応じる気配はない。切り上げが安い小麦などの輸入増につながり、その結果農村が打撃を受け、輸出を業務とする国有企業にも悪影響を与えて失業者が増大する、外貨建て資産が目減りしてリスク対応能力が不足する金融機関が相次ぐなど経済への影響を強く懸念するからだ。だが、2001年12月に世界貿易機関(WTO)に加盟し、自由貿易を促進する立場になった中国にとって、為替制度における市場原理は避けて通れない道である。このため、時間をかけて最高5%の変動は容認する可能性があるといわれるが、資本移動の自由化が前提になる変動相場制への移行は、目下、中国が海外への株式投資を制限していることを考えると、なお先延ばしされそうだ。
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