FTAとは、特定の国や地域の間で、関税や数量制限など貿易の障害となる壁を相互に撤廃し、自由貿易を行なうことによって利益を享受することを目的とした協定のこと。1960年に英国など7か国で結成したEFTA(ヨーロッパ自由貿易連合)、ブラジル、アルゼンチンなど7か国のLAFTA(中南米自由貿易連合)が先駆けになって、その後、90年代に入ると急速に増えた。WTO(世界貿易機関)の調べによると、域外国への関税を統一する関税同盟を含めて190件を数える。日本はこれまで多国間交渉を優先してきたが、昨年1月にシンガポールと初めてFTAを締結した。
9月15日、2005年1月の新ラウンド発足を目指すWTO閣僚会議(メキシコ・カンクンで開催)は、最近の多国間交渉の難航ぶりを象徴するように、農産物などをめぐる先進国と発展途上国の対立で決裂した。これにかわってこのところ、二国間や複数国間の交渉によるFTA締結の動きが目立ってきている。米国、カナダ、メキシコなどが参加するNAFTA(北米自由貿易協定)、さらに2005年には中南米と連携してFTAA(米州自由貿易地域)を結成しようとする動きがそれだ。アジアでは、AFTA(ASEAN自由貿易地域)が発足した。
FTAでは、途上国は投資の拡大が期待でき、先進国は工業製品の輸出拡大につながるというメリットがある。その反面、グループを作り地域外からの貿易を排除することから、世界規模の貿易自由化を推進するWTOとは対立する。WTOのGATT(関税と貿易に関する一般協定)24条の規定は、安易なFTA形成を防ぐ立場から、原則として10年以内に一部の例外を除き大半の品目について関税の撤廃を求めている。それにもかかわらずFTAが増えているのは、WTOのように一律ではなく、締結国や地域が、豚肉など農産物を中心に「除外品目」や「再協議(先送り)品目」といった国内事情に配慮した例外を設け、自由化に慎重な国々に弾力的な対応をしているからである。
特定の国や地域との貿易を優遇するFTAだが、関税をゼロにすることによる市場拡大だけでなく、サービス、人の移動、投資など貿易をこえた分野でのより深い関係を築くことができる。FTAに詳しい伊藤元重東大教授(経済)は、「非常に強い力で動いているFTAの流れを止めることはできない。乗り遅れることが許されない状況でさえある」と、マルチ(多国間)レベルでの自由化の障害にならないようなルールづくりの必要性を指摘している。
一方、FTAを外圧として受け止めることで、国内産業の国際競争力強化に役立てたり、制度の改革や経済の再生につなげていくことも可能である。経済産業省は、「わが国企業の活動や利益の源泉は東アジアに大きく軸足を移しつつある」(「通商白書」2003年版)として「東アジアビジネス圏」の形成に取り組む考えを表明した。東アジア全体を1つの事業単位や市場とみなし、最適な生産,分業体制を構築するのが目的である。今後、日本は、10月にメキシコとFTA合意を予定しているほか、韓国、フィリピン、マレーシアとも締結に向けた協議を行なうことにしている。また現在、インドネシア、チリ、ブラジルからも申し入れがきている。
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