9月18日、民主党は衆院選に向けたマニフェスト(政権公約)案を発表、この中で、高速道路について、日本道路公団と本四連絡橋公団を廃止し、3年以内に高速道路料金を無料にすることを盛り込んでいる。現在、道路公団がかかえている約40兆円の債務の返還については、低利の長期国債に借り換え(償還期限10年の長期国債を借換国債として数回発行、国鉄民営化で採用された特殊法人の債務を国につけかえる仕組み)して60年で返済する、またガソリン税など道路特定財源は廃止して一般財源化するとしている。
この無料化案をめぐっては、民主党内で、民営化するはずだったのに税金による債務償還をするのでは国有化を意味する、トラックなどの幹線貨物輸送を鉄道・海運にシフトさせ環境に配慮する方針とは食い違う、という批判があった。だが、無料化のメリットとして、サービス産業を中心に地方分散の流れを加速し、新しいビジネスが起きることで雇用増にもつながるとの主張が通り、マニフェストに取り入れることにした。しかし、「道路関係四公団民営化推進委員会」(以下民営化委)の最終報告が打ち出した「受益者負担の原則による有料化維持」の方針とは真っ向から対立するもので、11月に予想される衆院選の大きな争点のひとつだ。
高速道路は、これまで道路公団が主に国の財政投融資資金からの借金で建設し、通行料で返済する「償還主義」を採用していたが、道路公団のコスト意識の低さも手伝って膨大な負債を累積させてきた。民営化委の最終報告は、05年度から「保有・債務返済機構」が資産としての高速道路と債務返済を引き継ぎ、地域別に5分割された民営化会社はここにリース料を支払うという「上下分離」方式を提案。累積債務は従来通り料金収入を充て40〜50年で返済するとしている。
高速道路の新規建設については、最終報告は、各民営化会社が自主的に決定するものの、通行料を建設財源に活用することは大幅に制限している。しかし、国が責任をもって建設するとされている「高速道路整備計画」(予定路線1万1520`、整備計画路線9342`)は、まだそのままになっており、国土交通省は、自民党道路族議員の意向も汲んで引き続き新規建設に前向きだ。民営化法案では、保有・債務返済機構が民営化会社に資金を出して建設させ、それを機構が受け取ることで相殺する仕組みを盛り込むことを検討している。ただ、石原伸晃国土交通相は9月22日、記者会見で「国の直轄方式で600〜700キロを整備するつもりだが、道路公団が債務超過なら建設できない」との見解を示した。
高速道路は建設当初から、借金を返済した後は通行料を無料にすることを原則としていた。固定資産税を免除されているのはそのためだ。しかし、採算がとれなければ民営化ではない。民営化委でも一時、「民営ということは永久に有料である」という表現を盛り込み、将来的にも無料化はあり得ないことを明記しようとしたが、そうなると課税される可能性があり、それでは民営化の足を引っ張りかねないとの懸念から見送られた経緯がある。
無料化論を提唱して民主党に案を提供した山崎養世シンクタンク代表は、「有料制度は財源がなかった1956年に導入された例外措置。金利2%の長期国債に借り換え、毎年2兆円の道路財源を返済に充てれば元利合計は減り、国民負担は軽減できる。米英など先進国は税金で高速道路を建設し、料金はとっていない」と強調している。これに対し、民営化委員で作家の猪瀬直樹氏は「無料化論はまやかしだ。高速道路を民営化するのは税金の無駄遣いを止めるためでなかったのか」と批判、委員長代理を務める田中一昭拓殖大教授も「国債発行残高が420兆円に膨れ上がり、税収確保が大変なときなのに、安易に国民負担を求める考え方には反対する」と主張している。
高速道路建設に熱心な国土交通省は、9月4日、首都、阪神両高速道路の一部の新規路線建設について、来年度から国・自治体が35%、残りを公団が負担して一般道路と同じ公共事業として建設、国・自治体が建設した部分は通行料を無料とすると発表した。大都市では土地取得や地下トンネル整備に多額の費用がかかり、料金収入でまかなうこれまでの公団方式――距離制料金でなく全区間同一料金制をとるやり方だと、また採算は悪化して運営が成り立たなくなるのが確実なためだ。背景には、たとえ民営化会社に移行しても不採算路線の新規建設抑制の対象外になるとの国交省の思惑がある。
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