国産の情報収集衛星2基を積んだH2Aロケット6号機の打ち上げが、9月27日、技術トラブルのため11月以降に延期された。3月に第1弾として打ち上げた2基に続くもので、成功すれば来年4月から1日2回以上の観測が可能となり、初の“日の丸偵察衛星”として本格的な運用が始まるはずだった。おりしも10月1日から宇宙開発事業団、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所の宇宙関連3機関が統合、独立行政法人「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)として発足したばかりで、今回の延期はその出鼻をくじいた格好になった。
情報収集衛星の打ち上げは、1998年12月の閣議で、すでに「外交・防衛等の安全保障及び大規模災害等の危機管理のために必要な情報の収集を主な目的として、平成14年度(2002年度)を目途に情報収集衛星を導入する」と決定されている。衛星の目になるのは、昼間に画像を撮る「光学センサー」(超望遠カメラ)と、曇天や夜間でも撮影できる「合成開口レーダー」の2種類。性能を示す識別能力である解像度(分解能)は、センサーが1m、レーダーが1〜3m。米国は、すでに100基以上の偵察衛星を運用、高度な技術を保有しているが、その軍事偵察衛星の15cm四方という識別能力に比べれば、国産衛星とは格段の差がある。ただ防衛庁が99年から利用している米国の商業衛星「イコノス」とは同程度だ。
この衛星を導入するきっかけになったのは、1998年の北朝鮮のミサイル「テポドン」の発射だ。それまでの米国頼みの情報収集に危機意識が高まり、計4基の衛星打ち上げと地上受信施設を合わせ2500億円かけ、宇宙開発事業団と三菱電機が開発したもので、北朝鮮の核開発、ミサイル関連施設や工作船の動向を監視することが主な目的である。撮影の場所、時刻などは官房副長官をトップに防衛庁、外務省など関係省庁の局長クラスで構成する「内閣衛星情報センター」が決め、画像の解析など実務は東京・市ヶ谷の中央センターで行なう。
一方、衛星打ち上げに使用されたロケットは、2001年8月に運用が開始された国産の大型H2Aロケット(2段式、燃料は液体水素と液体酸素、重量2t)で、5号機までは順調に打ち上げに成功していた。今回の延期は、飛行方向を決める頭脳に相当する慣性センサーユニットから送られてくるデータに異常が発見されたことによる。宇宙航空研究開発機構は、7号機以降は新型の大型ロケットを三菱重工と約200億円かけて共同開発し、世界15カ国が参加する有人宇宙ステーション計画に加わる予定だ。エンジンを2基にし、高度400kmの軌道に打ち上げ、2008年からは年6tの物資輸送割り当てをこなすことを目標にしている。
ただ、最近になって第1弾で打ち上げた衛星の識別能力が、計画上のレベルを下回って2〜3mしかないことが判明した。これだと同じ大きさの場合、バスかトラックかの形状や車種の区別がつかない。開発機構は、センサーの具合が悪いのか、衛星の運用方法に問題があるのか、原因の解明を急いでいる。また衛星の寿命が5年しかなく、軌道を自在に制御する技術の導入を含めて今後、取り組むべき課題は多い。
|