今週の必読・必見
日本を読み解く定番論争
文藝春秋編 日本の論点PLUS
日本の論点PLUSとは?本サイトの読み方
議論に勝つ常識一覧
執筆者検索 重要語検索 フリーワード検索 検索の使い方へ
HOME 政治 外交・安全保障 経済・景気 行政・地方自治 科学・環境 医療・福祉 法律・人権 教育 社会・スポーツ
論争を読み解くための重要語
多国籍軍
2003.10.09 更新
 外務省の調べによると、10月2日現在、米英軍を主力に35か国約15万人の部隊がイラク連合軍暫定当局(CPA)のもとで活動している。イラクの戦後統治を米英軍主導で行うことを認めた国連安全保障理事会決議1483(5月22日採択)に基づいて行われているミッションだが、いま国連では米国の要求によって、加盟国の部隊も参加した新たな多国籍軍を創設するための新安保理決議の採択が大詰めを迎えている。

 戦闘終結宣言(5月1日)以後、テロなどの襲撃によるイラク国内での米兵の死者は147人(9月4日現在)。すでに戦闘時の死者を上回った。長引く駐留で戦費は膨らむ一方だ。さらに国連現地本部自爆テロ(8月19日)に象徴される治安悪化も加わり、ブッシュ大統領は9月7日、国連演説で「加盟国はイラクが自由で民主的な国となるため幅広い役割を担う責任を有している」と、ついに米英主導から多国籍軍による統治への方針転換を表明した。最初の米国案は、あくまで米軍による多国籍軍の指揮権掌握を前提としていたが、最近では「指揮権は国連主導だが司令官は米国人」という案で妥協をはかる考えを示している。

 世界の平和と安全の維持を目的として結成される「国連軍」は、「強制軍」と「平和維持軍」(PKF)に分けられる。国連憲章が想定する強制軍は、安保理事国と加盟国が特別協定を結び、目的、機能、構成などをあらかじめ決めて加盟国が提供する兵力によって軍事的強制措置を行う。費用は国連の負担だ。しかし、東西冷戦の間、米ソ大国間の利害対立があって、こうした強制軍としての常設国連軍は存在しなかった。“米ソの代理戦争”といわれた朝鮮戦争(1950〜53年)のときに16カ国が参加して強制軍が組織されたが、米国が事実上の指揮を取り、構成や活動からいえば実態は西側の同盟軍的な変則国連軍だった。また90年11月、湾岸戦争のとき安保理決議を受けて28カ国が兵力を提供した強制軍が米国人の総指揮のもとで多国籍軍として組織された。このように国連軍は実質的には多国籍軍方式でしか組織されていないのが現実だ。

 これに対し、平和維持軍は、受入れ国の同意を前提とし、国連事務総長が指揮するもので、強制行動の任務は持たず、内政に介入しない。主なものには、昨年12月から現在もアフガニスタンに派遣されている「国際治安支援部隊」(ISAF)がある。過去には、旧ユーゴのボスニア紛争(1992年3月〜95年12月)における「国連防護軍」(UNPROFOR)、コソボ紛争(99年6月〜)ではコソボ平和維持部隊(KFOR)が組織された。ところで、これから組織されるであろうイラク多国籍軍は、米国がインド、パキスタン、トルコ、韓国に大規模部隊の派遣を要請していることでも明らかなように、軍事力負担を他国に肩代わりさせ、徐々に自軍を撤収させたボスニア・コソボ型への転換を狙っていると思われる。

 安保理で多国籍軍が承認されたら日本は参加できるのかといえば、いまのところ不可能である。というのも、政府の憲法解釈では、他国の軍隊と一緒に行動する多国籍軍は集団的自衛権の行使にあたり、憲法9条が禁じる武力の行使と一体化する恐れがあるからだ。しかし、イラク復興支援特別措置法を制定し、非戦闘地域に限定したとはいえ自衛隊を派遣することを決定した日本が、多国籍軍への不参加を表明することができるのだろうか。政府・与党のなかにはイラク特措法3条の「安保理決議に基づき、国連加盟国が行うイラク国内における安全及び安定を回復する活動を支援する」を援用、多国籍軍への参加が可能かどうかを検討する動きがあるが、それ以前に、じつは集団的自衛権そのものの見直しが迫られているのである。



バックナンバー


▲上へ

Copyright Bungeishunju Ltd.