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北朝鮮「安全の保証」
2003.10.30 更新
 北朝鮮が核開発計画を放棄する見返りに、6カ国協議の多国間の枠組みの中で、米国が金正日体制を転覆する意図のないことを文書化する――。10月20日、タイ・バンコクで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席したブッシュ米大統領が、個別に会談した中国、ロシア、韓国、日本の各首脳に提案して合意を得たのがこの「安全の保証」だ。北朝鮮は最初、「一顧の価値もない笑止千万な主張」と非難し、日本海で地対艦ミサイルを連日にわたり発射するなどしたが、25日、「考慮する用意がある」と方針転換を表明した。

 米国が「安全の保証」の文書化に踏み切ったのは、核廃棄のかわりに北朝鮮が要求する米朝2国間の不可侵条約の締結に代えて何らかの約束をしないと6カ国協議の進展が見えないからだ。「安全の保証」は法的拘束力はないが、米議会の承認が必要な共同声明のかたちで行なうことによって、条約ではないが国際的な約束に近くなるし、何よりも北朝鮮に理解を示す中露両国や、太陽政策をとる韓国を対北朝鮮包囲網から脱落させないようにするためである。

 北朝鮮は、6カ国協議に参加した後も「使用済み核燃料棒の再処理完了」を宣言し、核兵器保持をちらつかせる戦術に出ていた。しかし、頼みとする中国やロシアが6カ国協議を重視する立場を変えないため、北朝鮮はこのままでは孤立を深めるだけと判断、29日に呉邦国・中国全国人民代表大会常務委員長が訪朝し、金総書記と会談した機会をとらえ、中国の顔を立てるかたちで条件闘争に転じる姿勢を打ち出した。今後は6カ国協議と、ニューヨークでの米国との非公式協議を行ない時間稼ぎをしながら有利な打開策を探る模様だ。

 10月25日の北朝鮮外務省報道官の発言によれば、今後の協議について北朝鮮は、「同時行動原則に基づいて一括妥結案を実現するのに肯定的な作用をするものであれば」という前提条件をつけている。同時行動原則とは、@米国が重油の提供を再開し、人道的食糧支援を大幅に拡大すれば、同時に北朝鮮は核放棄の意思を宣言する、A米朝不可侵条約を締結し、軽水炉提供の遅延による電力損失を補償した時点で、核施設と核物質の凍結と監視、査察を許容する、B米朝、日朝の外交関係樹立と同時に、ミサイル問題を解決する、C軽水炉が完工する時点で核施設を解体する――というものだ。

 米国としては、1994年の米朝枠組み合意で、北朝鮮が核放棄の意思表明をしただけでエネルギー支援を行ない、結局、裏切られた経験がある。そこで今回は、核放棄の検証、とりわけ既存の核物質の解体などを確実かつ不可逆的に実行させることは譲らない方針だ。これに対し、先の原則を堅持する北朝鮮が譲歩するかどうか、また中露両国の出方などを考えると、12月には再開する見通しの6カ国協議だが、時間のかかるのは避けられそうにない。



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