KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)とは、1994年の「米朝枠組み合意」に基づいて、北朝鮮が進めていた核開発計画を放棄する見返りに、プルトニウムを抽出するのが困難な軽水炉型原子力発電所2基を建設するため、95年に設立された国際共同事業体のこと。KEDOの理事会を構成している米国、日本、韓国、EU(欧州連合)が11月4日、非公式理事会を開き、向こう1年間、軽水炉建設事業を中断することを決めた。21日までに正式決定する。
KEDOがこうした強硬措置に踏み切った背景には、北朝鮮の相次ぐ枠組み合意違反があった。まず2002年10月、北朝鮮が秘密のうちにウラン濃縮計画を進めていたことが発覚、このためKEDOは11月に代替燃料として提供してきた重油供給を停止した。これに反発した北朝鮮は、寧辺の核施設から国際原子力機関(IAEA)の査察官を追放し、さらに凍結していた原子炉の稼動を再開した。
97年8月、琴湖地区で始まった軽水炉建設事業は、総工費約46億ドルで、そのうち韓国が70%、日本は22%の10億ドルを負担(4億ドルは拠出済み)することになっている。すでに敷地整備を終え、昨年8月には軽水炉の土台部分へのコンクリート注入が行われた。2008年の完成を目指す1号基は全体の33%の作業が完了している。
今回は、米国がけじめをつける意味で、建設作業を中断させたものだが、最初は無期限中止を決めようとしていた。しかし、北朝鮮を刺激することを嫌う韓国が強く反対し、このため日本が間に入って、中止から期限付きの中断とするよう働きかけていた。ただ、米国は強硬姿勢を崩しておらず、作業の再開条件として核開発計画の放棄と、完全な検証に応じるなどの約束を北朝鮮がしない限り、1年後には中断したまま作業が終了する公算が強い。
当然ながら北朝鮮は今回の決定に対し、外務省報道官の談話で「枠組み合意を一方的に完全に破棄した」と非難(11月6日)し、軽水炉供給協定をたてに米国とKEDOに損失の補償を要求した。核開発放棄問題はいまや6カ国協議の場に移っていることから、軽水炉建設中断が協議ボイコットにつながるのではないかと心配されたが、北朝鮮はいまのところ、そこまでは言及していない。
6カ国協議の12月の再開に向けて、米国が北朝鮮に対する「安全の保証」を文書化する方針を打ち出す一方、中国の呉邦国全人代委員長が訪朝して金正日総書記と会談、参加を働きかけるなど、米中両国の連携が、北朝鮮のかたくなな姿勢をやわらげているが、米国は94年の失敗の轍を踏みたくないのが本音だ。北朝鮮自身も協議参加への前提条件として、@「米国が重油の提供と食糧援助をすれば同時に核放棄の意思を宣言する」、A「米朝不可侵条約を締結し、軽水炉遅延による電力損失を補償すれば、同時に核査察を許す」など「同時行動原則」を主張して、駆け引きが続いている。しかし、北朝鮮のエネルギー危機は深刻で、当面は米朝両国とも6カ国協議を問題解決の場としてみているようだ。
日本の安全にとっては北朝鮮の核開発はミサイルと並んで死活的な問題である。とりわけ「安全の保証」が日米同盟関係にもたらす影響は大きい。8月には西原正防衛大校長が米ワシントンポスト紙に寄稿した「北朝鮮のトロイの木馬」と題した論文が注目されたのもこれと無関係でない。このなかで西原氏は「米朝不可侵条約は日米安保条約と矛盾する。北朝鮮が核を放棄したとしても、生物化学兵器で日本を攻撃することも可能で、在日米軍は日本を守るために北朝鮮を攻撃できなくなる」と日米安保条約による抑止力の低下を懸念している。
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