11月21日、政府の「国民保護法制整備本部」(本部長=福田康夫官房長官)は、有事の際、武力攻撃や大規模テロから国民の生命・財産を守る「国民保護法制」の要旨をまとめた。6月の有事法制3法(武力攻撃事態対処法、改正自衛隊法、改正安全保障会議設置法)の成立を先行させたため、施行後1年以内に整備するという与党3党と民主党の間の合意に基づいてまとめられたものだ。
国民保護法制とは、「わが国に対する外部からの武力攻撃が発生したとき」、または「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるにいたったとき」あるいは「大規模テロ」があった場合、武力による被害を最小限にとどめるために、政府による警報発令、地方自治体による住民の避難、被災者救援などの方策を規定するものだ。
要旨では、骨子が作成された4月の時点で、不十分とか不透明と指摘された幾つかの点が明確化された。焦点の1つだった「都道府県知事の権限」については、国の「武力攻撃事態対策本部」設置前であっても知事が避難、誘導措置を講ずることができることになり、国の出す警報とは別に知事が緊急通報を出すことができる。また、知事は緊急の場合に一時的に避難する「退避」を住民に指示できるようにした。これらは国と自治体の役割分担をより鮮明にさせたもので、昨年5月に全国知事会で出された「責務だけ規定し、権限後回しでは不安がある」(山田啓二京都府知事)などの不満にこたえたものだ。
「国民の協力」として挙げた住民避難や被災者救援の援助、消火活動・負傷者搬送、保健衛生の確保援助、避難訓練への参加――は、義務でなく、「国民の自主的な意思にゆだねられる。強制力は伴わない」と任意とした。一方、「私権の制限」については、自治体が収容・医療施設を確保するためなら、住民の土地・建物を収用できるが、その場合は損失を補償する、としている。また避難、救援などに協力した人が死亡したり、負傷した際にも要請した国、自治体が損害を補償する。なお罰則の対象としては、土地・建物の使用や物資の収用などを拒んだ者が含まれる。
また、民主党が賛成の条件として「基本的人権の尊重」を盛り込むことを強く求めた結果、「思想及び良心の自由の侵害や、表現の自由の不当な制限を禁止する」と国民の権利の保障が明記された。一方、国民の「知る権利」にからむことから注目された、警報や避難指示を出す「指定公共機関」に民放を含めるかどうかは、今回は見送られた。民間放送連盟が、指定を受けると、番組内容に事前の検閲をされるおそれがあり、報道の自由を侵すと難色を示しているためだ。
昨年来、政府内では、有事に対応する民間防衛組織づくりが検討されたが、これも要旨では見送られ、かわりにボランティア活動組織をつくり、国,自治体が支援することにした。ちなみに欧米では、住民が結束して国、自治体と協力、ふだんの訓練はじめ、食糧備蓄、シェルターを整備するなど、みずからの生命・財産を守る組織をつくるのは、国際人道法(ジュネーブ条約)でも認められていて、国民保護法制に実効性を持たせるものと常識的に理解されている。
しかしまだ、これから詰めなければならない点も残っている。たとえば、日本国内に滞在する外国人の扱いをどうするのか。知事の医療関係者に対する実施指示に対し、応じなかった場合の罰則をどうするのか。まだ完全に実効性は担保されていない。同様に、知事の判断が国と違った場合はどうするのか。実際に避難マニュアルを作成した片山善博鳥取県知事によると、住民避難の輸送方法が大問題だといい、橋本大二郎高知県知事も有事を想定した道路整備の必要性を強調している。こうした問題点を関係者と協議、調整したうえで法案化、来年の通常国会に提出する予定だ。
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