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論争を読み解くための重要語
児童虐待
2003.11.27 更新
 児童虐待による被害がいっこうに減らない。11月23日、愛媛県で16歳の無職少年が交際女性の長男(2歳)に大けがをさせ、傷害容疑で逮捕された。10月21日には、愛知県で高校3年生が交際相手の女性の長男(4歳)を暴行死させた事件が起きたばかりだった。

 児童虐待とは、@殴ったり、たばこの火を押しつけるなど「身体的虐待」、A家の中に閉じ込めたり、病気になっても病院へ連れていかない「放置、保護の怠慢」、B言葉で脅したり、無視する「心理的虐待」、C「性的虐待」――の4つに分類される。

 被害者になる子どもで目立つのは、再婚家庭や内縁関係にある夫婦の子どもで、往々にして子どもがじゃまになったり、別れた相手への恨みを子どもにぶつけたりすることがあるからだ。加害者になる親らの動機としては、一般に育児相談をする相手がなく孤立し、不安や欲求不満を子どもにぶつける。また、精神的に大人になっておらず、子どもを育てる意識や技術がない、子どもに対して単なる所有物や愛玩動物のような感覚しか持っていない――などがあげられる。

 厚生労働省の調査によると、2002年度、全国180カ所の児童相談所が処理した児童虐待の件数は2万4159件、前年度比921件増で、過去最多を記録した。1990年度の1101件から比べると約22倍になる。2000年11月、「児童虐待防止法」が施行されたが、日本の26年前に法律ができた米国と比べると「ザル法だ」と指摘するのは、精神科医で児童虐待に詳しい斎藤学氏(家庭機能研究所代表)だ。その理由は、医師、教師など特定の職種の者が虐待の疑われる児童を発見した際の通告義務を課しておらず、その義務を怠った場合の罰則も欠き、加害者への刑事罰や強制治療についても規定されていない点にある、という。米国では、医師、看護婦、教師、保母らに通告義務が課せられ、怠れば罰金刑だ。市民にも通報は当然のこととして受け止められている。

 児童虐待防止法に基づいて、児童相談所が昨年度に実施した立ち入り検査は230件(前年度比30件増)、警察官に援助を求めた例は402件(同24件増)。また、家庭や医療機関などから児童相談所に寄せられた児童虐待の相談件数は2万4254件(同538件減)で、統計を取り始めた2000年度以降初めて前年より減った。この点について、厚労省は「相談のうち軽微なものは市町村の相談窓口で対応するようになったことなどが要因。事態が深刻なことに変わりはない」と説明している。

 厚労省は、「社会保障審議会児童部会」が11月17日にまとめた児童虐待や要保護児童への対応見直しを踏まえて、「児童福祉法」(1947年制定)の抜本改正に取り組むことにしている。具体的には、家庭裁判所の審判が行われる前でも虐待児童を施設に入所させる仮処分をできるようにすることなど、戦争孤児の保護が主な目的だった同法を、児童相談所の機能を虐待の対応に特化し、これまでのように受動的でなく、積極的に介入することに改める方針だ。また、虐待を受けた子どものケアは、従来の施設中心から、より家庭に近い環境に転換、里親制度の普及、グループホームの実現、子育て相談や虐待対策にあたる児童福祉司の任用資格を見直して、保健師、助産師、保育士にも拡大することなどが検討されている。来年の通常国会に改正案を提出する。



関連論文

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96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

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(2002年)児童虐待防止法は出発点――虐待する親の治療態勢の拡充こそ急務
斎藤 学(家族機能研究所代表)

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