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論争を読み解くための重要語
少年事件の公開捜査
2003.12.18 更新
 12月11日、警察庁は、容疑者の特徴を公表し市民から情報提供を受ける公開捜査の対象に、成人だけでなく19歳以下の少年も加えることを決め、全国の警察本部に通達した。1998年10月の前回の通達では、凶悪事件に限って、例外的に少年容疑者の公開捜査を可能としたが、明確な基準が示されず、ほとんど実行されなかった。

 これからの公開捜査は、「凶悪な犯罪」、「犯行の手段、方法が特に悪質で、再発の恐れが高い」、「社会に不安を与える」、「公開捜査以外に効果的な捜査手段がない」――が基準になる。これらを総合して事件ごとに判断し、事前に警察庁、管区警察局と協議することを前提にしている。また、容疑者が特定されていないときでも、必要に応じて、防犯カメラの写真や似顔絵、身体的特徴、音声記録など、捜査で得られた資料を報道機関や交番のポスターなどを通じて公開する。

 少年にまで公開捜査を拡大する背景には、政府が9日に公表した「青少年育成施策大綱」のなかで、少年非行対策として、「人権保護と捜査上の必要性を勘案して、少年事件の公開のあり方の検討を行う」と明記されたことがあげられる。また、凶悪犯罪の低年齢化が著しいことから、対応の強化が求められていたことも影響している。ちなみに、ことし上半期の少年による凶悪事件の検挙者数は1105人(前年同期比10%増)。この10年で倍増しており、統計をとり始めた1979年以降では最悪を記録した。

 現在の「少年法」(1949年)は、罪を犯した少年を罰するのではなく、教育的対応によっていかに更正させるかという保護主義の精神に立脚している。2000年の改正前は、16歳以上の少年で、その凶悪性において「刑事処分が妥当」とされたときにはじめて検察に逆送、起訴される。実刑判決になれば少年刑務所に収容される。それ以外は家庭裁判所の審判(非公開)に委ねられ、不処分、保護観察、少年院送致のいずれかの決定となる。いっぽう、14歳以下のいわゆる「触法少年」は刑事罰を問われない。しかし、こうした仕組みは現状からかけ離れているとして、2000年11月の少年法改正で、刑事罰の対象年齢が「14歳以上」に引き下げられた。きっかけは1997年の神戸・児童殺傷事件で、今年7月には長崎・児童誘拐殺人事件が起き、加害者12歳、被害者は4歳という事実は大きな衝撃を社会に与えた。

 だが、この問題について議論は尽くされているとはいいがたい。少年法61条は、家裁審判に付された少年、または少年のときに起こした事件で起訴された者について、氏名、年齢、職業、住所、顔立ちなど、事件の加害者本人であることが推察できるような記事や写真を、出版物に掲載することを禁じている。捜査当局も、いままではこのメディア規制に準じて公開捜査を規制してきた。しかしこれからは、それが"緩和"されるわけで、これについては、「公開捜査によって得られる利益の方が大きいと判断した場合に限定する」という条件こそついているが、弁護士ら識者の、裁判の確定前に警察の判断によって一方的に加害者にされる恐れがあり、公開捜査の対象拡大は少年法の理念に逸脱しているという批判があるからだ。いっぽう7年前に16歳の長男を高校生に殴殺された武るり子・少年犯罪被害当事者の会代表のように、「少年事件の解明は捜査の段階から審判にいたるまで密室で行われてきた。公開捜査によって適切な捜査が期待できる」(読売新聞2003年12月11日付)と評価する意見もある。



関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2001年)被害者の権利を認め、加害少年に真の反省を迫る少年法であってほしい
武るり子(「少年犯罪被害当事者の会」代表)
(2001年)少年法の厳罰化と検察官導入では、少年はとても更生などできない
寺尾絢彦(元家庭裁判所調査官)
(2000年)被害者と社会規範を守る――少年法改正は国民の要望である
河村建夫(衆議院議員・自民党法務部会少年法に関する小委員会委員長)
(2000年)少年の厳罰化は被害者にも少年にも不幸な結果を生むだけである
川崎英明(東北大学法学部教授)

議論に勝つ常識
(2001年)少年による凶悪犯罪続発の背景を考えるための基礎知識
(2001年)加害少年の処遇と報道のあり方を考えるための基礎知識
(2000年)少年法改正案提出の経緯と背景を考えるための基礎知識



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