12月18日、小泉首相は、自衛隊のイラク派遣実施要項を承認し、石破防衛庁長官は航空自衛隊に派遣命令を下した。中核となる陸上自衛隊は年明けの1月下旬にも派遣される予定だが、今回初めて武器使用の手順などを具体的に決めたROE(部隊行動基準)が策定された。これは防衛庁訓令に基づいて、陸上幕僚長が作成し、防衛庁長官が承認したもので、これまでPKO(国連平和維持活動)の海外派遣で定められていた「通達」や「一般命令」という非公式な武器使用基準とは異なり、戦後日本の防衛史上画期的なこととなる。
ROEとは、「Rules of Engagement=ルールス・オブ・エンゲージメント」の略で、通常は「交戦規則」と呼ぶ。国際法や国際慣例、国内法の範囲内で各国の軍隊がとる行動の限度などを示すもので、日本の場合、憲法9条によって「交戦権」が認められていないことから、防衛庁は「部隊行動基準」と訳している。『防衛白書』(平成15年版)には、ROEの目的は「法令などの範囲内で、部隊などがとり得る具体的な対処行動の限度を政策的判断に基づき示すことにより、法令の遵守を確保するとともに、的確な任務遂行に資する」と明記され、また「部隊指揮官の政策的判断にかかわる負担は軽減されるとともに、部隊行動を政府の方針に的確に合致させることが容易になる」というメリットも挙げられている。
現在、ROEは「悪用される恐れがある」(陸自)と安全上の理由から公表されていない。しかし、報道などによれば、@行動の地理的範囲、A使用・携行できる武器の種類、B武器の使用方法・基準、C政策的判断に基づく制限――の4項目で構成され、武器使用については、「口頭で制止を呼びかける」、「武器を使うと警告する」、「無視したら武器を構えて威嚇する」、「上空や地上に向けて警告射撃する」、「身の危険を感じた場合、相手に危害を加える射撃を行う」――とマニュアルが示されている、という。これらは、自爆テロ攻撃やロケット弾攻撃が起きているイラクの治安情勢に備えたもので、新たに対戦車用の無反動砲、個人携帯対戦車弾の携行を認め、警護用車両として機関銃搭載の軽装甲機動車や内部からの視野が広い装輪装甲車の使用も容認している。これについて石破長官は「自衛隊の安全確保に必要で、過度の威圧を与えず任務を遂行するのに効果的なものだ」と説明した。
この ほか、ROEは、隊員が拉致、誘拐された場合は部隊長に捜索する責任があるとして、正当防衛としての応戦も認めている。また、「暴徒がこん棒を持って部隊を包囲、投石した場合」と「武装集団が武器を持って包囲した場合」には威嚇か警告射撃を、さらに「攻撃してきた武装集団が弾薬補給のために一時後退している際」に危害射撃ができることも明示している。
日本の憲法は、「交戦権」を否定するだけでなく、「国際紛争の解決の手段として」の武力行使も禁じている。戦後五十数年にわたって、政府の統一見解や国会答弁では、自衛権の発動については「急迫不正の侵害が行われ、他に手段がないと認められる限り」に限定され、「許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため、必要最小限度の範囲にとどめるべきものである」という歯止めをかけてきた。初めのころは警察官職務執行法に準じるとされていた武器使用も、92年以降のPKOで「自身の正当防衛・緊急避難」に限定され、7月のイラク支援特別措置法では、ほかの隊員、支援職員、自分の管理下に入った者まで守る対象として拡大されることになっていた。
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