世界最大の牛肉生産国である米国で12月23日、初めてBSE(牛海綿状脳症=狂牛病)感染牛が発見された。日本は、ただちに輸入停止を決めたが、国内消費量の3割を占める米国牛だけにスーパー、外食産業、食肉メーカーなど関係各方面に大きな影響が出ている。BSEによる牛肉、牛肉加工品などに日本がこうした措置をとったのは、英国、カナダなどに続き米国で24カ国目。
BSEとは、脳がスポンジのような海綿状になり、よろめいて立てないなどの運動障害を起こし、餌を食べなくなり衰弱死するという神経の異常を起こす病気だ。病原体はプリオン・タンパク質で、クズ肉から作る肉骨粉を介して経口感染するとみられ、約5年の潜伏期間を経て発病するといわれている。1986年、英国で初めて確認され、その後欧州を中心に広がり、ことし5月にカナダ、そして今度の米国とBSE感染は23カ国に拡大した。日本では、2001年9月、北海道で確認されて以来、130万頭の全頭検査が実施され、これまでに9頭がBSE感染牛と判断された。
BSEが世界的なパニックとなったのは、96年に英国が人に感染する可能性があると発表したのがきっかけだ。BSEそっくりの症状となるクロイツフェルト・ヤコブ病の患者が発見されてからで、100万人に1人の割合でしか発病しないとされながらも、全世界に強い衝撃を与えた。日本は、これを受けて、感染の危険性がある牛の脳、脊髄、目、小腸の四部位を食用から排除することを決めている。
国際獣疫事務局(本部=パリ、OIE)は、BSEを含めた動物感染症について、社会や経済に大きな被害をもたらすとくに危険なものをリストA(牛、豚の口蹄疫など15種)とリストB(BSE,狂犬病、ウサギ出血病など)に分けて指定している。リストAに入るコイヘルペスウィルス病は、食べても人体には影響はないものの、ことし10月、茨城・霞ヶ浦で大量発生し全国に拡大、コイ養殖業者らに大きな被害を与えた。また豚の口蹄疫は、97年に台湾で流行、このときは4カ月で約300万頭が殺処分されたという。
人間と動物の両方にうつる病気を「人獣共通感染症」と呼ぶが、その代表的なのは死亡率100%といわれる狂犬病である。1950年、狂犬病予防法がつくられ、犬の登録が義務づけられてから発症例はない。特定の動物に感染したウイルスが突然変異を起こして人に感染するようになったのが、SARS(重症急性呼吸器症候群=新型肺炎)や西ナイル熱、高病源性鳥インフルエンザだ。まだ、人体への影響がどの程度のものかはわからないものが多いが、実際には相当数の未知の人獣共通感染症が存在する。
動物感染症は、密度の濃い環境で飼育・養殖されているため、いったん発生すると家畜や魚に爆発的に感染が広がり、拡大を阻止するには殺処分するしか方法がないのが実態だ。具体的な感染原因や感染経路の解明はいまだに十分なされておらず、当面有効な対策は水際での予防策しかない。日本の場合、「感染症法」を改正し、鳥インフルエンザ、サル痘などを新たに感染症に加えたほか、感染源となる動物の輸入禁止など強制措置をとるようにしている。
今回の米国牛のBSE感染により、日本、韓国など27カ国・地域が輸入停止をしたが、事態を重視した米農務省は、12月29日、へグウッド特別顧問を訪日させ、外務、内閣府、農林水産、厚生労働の各省と初の局長級協議を開いた。このなかで、感染経路についてはカナダから輸入した6歳牛からの可能性が高いことが明らかにされ、米国産牛肉禁輸の長期化に備えた対応策では、対日輸出分については米農務省が安全性を保証することで部分的に解禁できないかという提案がなされたようだ。いっぽう政府は、輸入停止で経済的な影響を受ける中小企業向けに26日以降、中小企業金融公庫、国民生活金融公庫が特別融資(4000万円〜1億5000万円)を実施することにした。
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