2月10日、野沢太三法相は、刑法・刑事訴訟法改正案要綱を法制審議会に諮問した。犯罪の凶悪化、多様化に対応して、量刑を重くしたり、公訴時効を延長するなどして、犯罪の抑止効果を高める狙いがある。ちなみに今回の全面的な改正は、現行刑法が制定された1907年以来初めてで、およそ100年ぶりとなる。
改正案のポイントは、「量刑の強化」(殺人罪の懲役を3年以上から5年以上、傷害罪の同10年以下を15年以下、罰金30万円を50万円とするなど)、「時効の延長」(殺人罪の時効15年を25年に引き上げる)、「集団強姦罪、集団強姦致死傷罪の新設」(非親告罪とし、懲役4年以上)――である。
じつは、1974年にも法制審議会は刑罰強化を含む刑法改正草案を答申したが、このときは日本弁護士連合会(日弁連)などの強い反対で見送られた。それが今回、全面改正することになった背景には、犯罪の態様の激変や世論の変化、刑期の尺度となる平均年齢の大幅な伸張が挙げられる。「犯罪白書」(2003年版)によれば、02年の刑法犯の認知件数は約369万件、検挙人数は約122万人で戦後最多を更新した。殺人、強盗、婦女暴行などの凶悪犯罪は増加の一途をたどり、外国人犯罪も多発している。いっぽう平均寿命は男性78歳、女性85歳と、現行刑法の制定当時の男女44歳をはるかに上回っている。
日本の法体制は、刑罰の種類と分量である法定刑に一定の幅を持たせ、その範囲内で裁判官が裁量によって、犯罪の実情に応じて刑罰の言い渡しをする「相対的法定刑主義」をとっている。刑罰は、重い順に死刑、懲役、禁固、拘留、罰金、科料(罰金より軽い財産刑)、没収――の7種類あり、たとえば傷害罪は「10年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」というように組み合わせて規定している。また、懲役と禁固には、無期と有期があり、現行では有期刑の場合、単独罪で上限15年(改正で20年に)、併合罪で20年(同30年に)となっている。
現行法に対しては、犯罪の被害者や法曹関係者の間では「財産に対する犯罪に比べ、身体、生命にかかわる犯罪の法定刑が軽すぎて不合理だ」とか「罪の重さと刑法のバランスがとれていない」などの批判が根強くあった。その意味で、今回の全面改正は「厳罰化は犯罪抑止にプラス」と歓迎されているようだ。しかし菊田幸一・明治大教授(刑事法)のように「犯罪抑止のために厳罰化を進めるのは短絡的」(東京新聞2月11日付)との反対論もある。
また時効延長の理由は、DNA鑑定の導入など科学捜査技術の進歩によって、従来の「社会的影響の微弱化、証拠の散逸」という時の経過による時効正当化の理由が弱まったことがあげられるが、これに対しても日弁連には、なお「重罰化」と受け止める慎重論がある。ただ、米英両国では、凶悪犯罪に時効はなく、ドイツもテロ殺人の時効を廃止しているのが実情だ。
今回、死刑廃止とセットで議論されてきた終身刑の創設は見送られた。終身刑とは、いわば死刑と無期懲役の間の刑罰で、無期懲役で認められている仮出所(10年以上服役して悔悛の情がある)を禁じることで、死刑にかわる量刑にしようというものだ。見送りとなったのは、死刑廃止を容認する世論がまだ少ないという現実を反映したものとみられる。これらの改正案は今秋に答申を受け、来年の通常国会で可決、成立する運びである。
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