今週の必読・必見
日本を読み解く定番論争
文藝春秋編 日本の論点PLUS
日本の論点PLUSとは?本サイトの読み方
議論に勝つ常識一覧
執筆者検索 重要語検索 フリーワード検索 検索の使い方へ
HOME 政治 外交・安全保障 経済・景気 行政・地方自治 科学・環境 医療・福祉 法律・人権 教育 社会・スポーツ
論争を読み解くための重要語
GDP7%成長
2004.02.26 更新
 2月18日、内閣府の発表によると、2003年10〜12月期の実質GDP(国内総生産=Gross Domestic Product)は、同年7〜9月期に比べて1.7%増、年率換算で7.0%増だった。これは、伸び率では1990年4〜6月期の10.5%増以来13年半ぶりの高水準だ。

 GDPとは、国内経済活動の指標、つまり国の経済の規模や成長の度合いを測るものさしだ。四半期ごとにデータが発表され、このGDPの伸び率が経済成長率にあたる。計算の基礎となる項目は、個人消費(民間最終消費支出)、民間住宅投資、民間企業設備投資、民間在庫品増加、政府最終消費支出、公共投資(公共固定資本形成)、財貨・サービスの輸出、輸入がある。これらの金額をそのまま表示したのが「名目GDP」だが、これに対して物価変動の影響を考慮して、消費や設備投資の金額を基準年の物価に修正して算出したのが「実質GDP」である。モノの値段が変化するとGDPの数値も変化してしまうため、実態経済を表すには、一般に実質GDPが使われる。

 今回、実質GDPを押し上げたのは、「二つのエンジン」(内閣府)といわれる輸出の好調と設備投資の増加である。中国と米国向け輸出が伸び、とりわけ中国向け輸出は、昨年1年間で前年比33%増となった。いっぽう企業設備投資は、DVD(デジタル多用途ディスク)レコーダーや液晶テレビなど、デジタル家電を軸に5.1%増となった。

 実質GDPは、前述のような消費や設備投資、輸出など各項目を構成する品目の価格変動を個別に調べ、その影響を除いた実質値を算出して積み上げるが、物価の総合的な変動を示すのがGDPデフレーター(名目GDPを実質GDPで割ったもの)という指標だ。この数字は下落幅が大きくなるほどデフレが進行していることを示す。今回は、GDPデフレーターが前年同期比で2.6%下落、23期連続でマイナスを記録し、いみじくもデフレの進行を裏付けた。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「デフレがきついために実質高成長という現象が起きた」と指摘している(産経新聞2004年2月19日付)。

 下落幅拡大の大きな要素を占めているのが、設備投資の比率の高いIT関連財だ。たとえば価格差を測る基準年(95年)と同価格のパソコンがあったとして、その性能が2倍なら、2分の1に値下がりしたと計算される。しかも比較する基準データは古いため、当時と比べて格段に性能が向上した現在のパソコンの下落幅は、かなり大きくなる。さらに価格下落の激しい品目が、販売数の増加などによって実質GDP総額のなかで占める割合が大きくなれば、それだけGDPデフレーターの下落幅は大きくなるわけだ。また、GDPデフレーターの下落幅が大きく算出される方式を採っていることも、実質GDPの数値を押し上げる結果となった。

 政府は、「民間需要を中心に、穏やかにしっかり回復している」(竹中平蔵経済財政・金融担当相)と、景気回復への自信をみせるものの、輸出、設備投資に次ぐ景気回復の柱である個人消費の先行きは不透明だ。奥田碩・日本経団連会長は「米ドル、中国人民元などの為替や米国の金利動向など、不安定要因も多く、手放しの楽観は許されない」という。また山口信夫・日本商工会議所会頭も「頑固なデフレの解消に全力を挙げ、地方や非製造業、とくに中小企業まで景気回復が及ぶよう努めて欲しい」と政府に注文をつけるなど、経済界には、「実感の伴わない高成長」に戸惑いや警戒感がある。

 今回、GDPの個人消費は前年比0.8%増で、一応、堅調な動きを示したが、いっぽうで7〜9月期が冷夏で、買い控えられた反動が表れたにすぎないという見方があるのも、そのひとつだ。識者の間でも依然としてデフレからの脱却ができていない、今後、増税や社会保険料の引き上げによって家計が負担増に直面する、失業など雇用環境の改善が遅れている――など、個人消費の著しい伸びが望めないことから、今度の7%成長が本格的な高成長にはつながらないという見方が支配的だ。



バックナンバー


▲上へ

Copyright Bungeishunju Ltd.