万景峰号など北朝鮮船舶の入港阻止を想定した、「特定船舶入港禁止法案」成立へ向けた動きが加速している。政府・自民党は今月1日、同法案の今国会提出を目指す方針で一致した。これまで立法化に慎重だった公明党も、北朝鮮の核開発問題、拉致問題をめぐる第2回6か国協議で具体的な進展がなかったことから、「北朝鮮との対話を進めるための道具として持ってもいい」(冬柴鉄三幹事長)と、容認姿勢に転じた。
対北経済制裁をめぐっては、2月9日に、日本独自の判断で、金融機関から北朝鮮への送金や貿易の停止を可能にする改正外国為替法が成立した。その直後、北朝鮮が日朝政府間協議に応じたことで、与党内には「圧力には一定の効果があった」との見方が広がっていた。入港禁止法案の成立でさらなる「圧力」をかけるべき、との強硬論が出てきたのもそのためだ。法案では、北朝鮮をはじめとする「特定国」の船籍をもつ船舶だけでなく、日本船籍であっても、「特定国」に寄港した場合は入港を禁じる条文が盛り込まれている。日本船籍を取得して日本への入港をもくろむ、北の「偽装工作」を封じるのがねらいだ。
こうした経済制裁法が成立し、発動されれば、ただでさえ急速に冷え込んでいる日朝貿易が壊滅的な打撃を受けるのは避けられない。財務省の貿易統計によると、昨年の日本の対北朝鮮輸出額は106億円、輸入額は201億円、対前年比でそれぞれ36%、32%も減少した。貿易額の合計は、過去最高の1259億円を記録した80年の、4分の1にまで落ち込んでいる。
輸入品では、工賃の安さで委託加工がさかんだったスーツなど男性用衣類の42%減、アサリやズワイガニを中心とした魚介類の36%減が目立つ。前者は、拉致問題への国民感情に配慮した大手量販店が相次いで撤退したためで、後者は、北朝鮮産品の税関検査が厳しくなって時間がかかり、鮮度の点で他国産よりも不利になったことが原因だという。
輸出では、電気機器や乗用車などの落ち込みが大きい。一昨年に導入された「キャッチオール規制」のあおりだ。この規制は、大量破壊兵器の製造に転用可能な製品は、輸出先や最終用途を確認した上で、経産相の輸出許可を得なければならないというもの。ハイテクでなくても、解釈しだいでは幅広い民生品がひっかかるため、輸出企業は北朝鮮がらみの取引を避ける傾向を強めている。
また、北朝鮮船舶の入港数自体も、国土交通省の船体安全検査「ポートステートコントロール(PSC)」の厳格化が事実上の“入港制限”となり、02年の1415隻から1007隻へと減少した。
こうした一連の規制や拉致問題の影響で日朝貿易が縮小するなか、一方で、03年の北朝鮮の対韓国貿易額は7億5000万ドルに達し、前年比で17%も増加した。対中貿易も同じく増加傾向にある。それでも北朝鮮にとって日本は、中国、韓国に次ぐ第三位の貿易先で、依然として、この三国で貿易全体の6〜7割を占めている。しかし実際は、北朝鮮は日本のかわりに、貿易の中心を中、韓両国に移しつつあり、たとえ経済制裁が発動されても、北朝鮮の貿易面の影響はそれほど大きくなさそうだ。だとすれば、拉致問題解決に向けた圧力も、貿易の停止に限っては、あまり効果がないことになる。
日本から北朝鮮へ携帯送金、つまり現金で持ち出される額は、届け出のあるだけで年間36億円におよぶ。特定船舶禁止法は、この日本円の持ち出しを禁ずるわけだから、北朝鮮にとってはきつい「外交カード」になることは事実。しかし「持つだけで切らない」というのでは、北朝鮮が日本に対してたかをくくるだけだ、と指摘する声もある。
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