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マラソン五輪代表選考基準
2004.03.18 更新
 3月15日、日本陸上競技連盟(会長=河野洋平衆院議長)はアテネ五輪マラソンの代表選手を決定したが、女子代表から前回シドニー五輪で金メダルに輝いた高橋尚子選手が落選、内外に大きな反響を呼んだ。

 高橋選手は、2001年のベルリンマラソンで当時の世界最高記録をマークするなど、女子マラソン界では第一人者。高橋選手の代表漏れを予想外と受けとめる人が多かったことについて、代表選考委員会(小掛照二陸連副会長ら10人で構成)のメンバーでもある沢木啓祐強化委員長は「選手を抱える指導者に明確な(選抜の)理由を示したかった」と、あくまで選考基準に従って決めた結果であることを強調した。

 マラソン五輪代表の選考基準は、昨年3月に決められているが、それは(1)世界陸上選手権の最上位者1名を代表選手とする、(2)選考競技会(男子=福岡国際マラソン、東京国際、びわ湖毎日、女子=東京国際、大阪国際、名古屋国際)の上位選手の中から、本大会(アテネ五輪)でメダル獲得または入賞が期待される選手を選考する――というもの。この基準に照らすと、高橋選手は、東京国際マラソンで2位に入ったものの、タイムが2時間27分21秒と平凡なもので、代表に選ばれた野口みずき(世界選手権2位、2.24.14)、土佐礼子(名古屋国際1位、2.23.57)、坂本直子(大阪国際3位、2.25.29)のタイムをいずれも下回っている。男子の場合、日本最高記録保持者でありながら、福岡国際マラソン3位だった高岡寿成選手が補欠にとどまり、代表には油谷繁(世界選手権5位)、国近友昭(福岡国際1位)、諏訪利成(福岡国際2位)の3選手が選ばれた。

 内定原案は代表選考委員会で約1時間半かけて作られた。それを陸連理事会(43人で構成)、ついで評議員会が承認する手順で代表選手が決まったが、選考委における高橋支持は1人だけだった。理事会の冒頭に河野陸連会長から「だれでも納得できる結論を導きたい」という発言があったという。それでもマスコミに「高橋落選」が予想外だと思われたのは、過去の代表選考が実績重視だったこと、ときには"ウルトラC"といわれるような大逆転があったからである。

 たとえば、92年のバルセロナ五輪。代表に決定したのは選考競技会で好タイムを出した松野明美選手(大阪国際2位)ではなく、世界選手権4位の有森裕子選手だった(五輪本番では銀メダルを獲得)。続く96年のアトランタ五輪では実績を買われた有森選手が、選考競技会で最高記録をマークした鈴木博美選手(大阪国際2位)を押さえて代表になった(銅メダル)。男子では、88年ソウル五輪の際、事実上の選考レースだった福岡国際を故障で欠場した瀬古利彦選手(びわ湖毎日1位)が代表に選ばれたのも、実績を評価されたからだった。

 高橋選手は記者会見で「代表に決まった3人にはがんばってほしい」とエールを贈ったが、小出義雄監督は「ある程度、過去の実績を考慮するのかなという甘い判断があった。結果的に記録で選ぶなら、強制的にでも名古屋国際で走らせた方がよかった」と見込み違いに無念さをにじませた。選考基準に「メダル獲得または入賞が期待される選手」との表現があり、これが、従来通り実績が考慮されるのではないか、との誤解を高橋選手サイドに与えたようだ。また、疲労骨折を経験するなど体調面から考えて、名古屋国際出場を見送ったほうが本番では有利との判断も働いたといわれる。米国では選考競技会での一発勝負で代表が決められる。また長距離王国のケニアでは実績重視の選考だ。スポーツジャーナリストの二宮清純氏は、今回の代表選考について、「いまの選考基準はテストの点数で選ぶといいながら、内申書も重視しているようなもの。一見、点数を反映させたかにみえるが、選手への誠意は感じられない。選考方法にメスを入れない限り、今後も選考での迷走劇を繰り返すのは避けられない」(東京新聞3月16日付)と指摘している。



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