5月4〜5日、日本人拉致問題をめぐる北朝鮮との政府間協議が北京で開かれた。2月中旬の平壌以来である。12日から開催される核開発問題を議題にした初の6カ国協議作業部会を前にしての日朝協議だけに、北朝鮮の思惑や出方が注目された。協議の結果、拉致被害者8人の早期帰国に道筋がつく可能性が出てきた。
政府・与党は、膠着状態にある拉致問題を打開するため、先に送金や貿易の停止など経済制裁が可能になった改正外国為替・外国貿易法を成立させたのに続き、「万景峰(マンギョンボン)92号」を視野に入れた特定船舶入港禁止法案の成立をめざしている。いっぽう、米国は、拉致問題を明記して、北朝鮮を引き続きテロ支援国家に指定した。こうしたことを考えると、北朝鮮は、核問題と並んで拉致問題についても言及されるのは必至で、北朝鮮は相当な譲歩が必要になる。危機感を強めた北朝鮮側は、核問題と拉致問題の切り離しを図るために協議に応じたと見られる。
日朝協議には、日本側から田中均外務審議官、藪中三十二(みとじ)アジア大洋州局長、北朝鮮側は鄭泰和(チョン・テフア)国交正常化大使、宋日昊(ソン・イルホ)外務省副局長らが出席した。日本側は、拉致被害者5人の家族8人の早期、無条件帰国を要求、また死亡もしくは入国の事実はないとされた拉致被害者10人の再調査を求めた。これに対し、北朝鮮側は従来の「5人をいったん帰すべきだ」との主張を繰り返した。一部報道によると、北朝鮮が8人の帰国を確約すれば、小泉首相が平壌へ行き、2002年9月以来の首脳会談に応じてもいいとの条件を提案したという。
拉致問題の解決がすでに1年半も先延ばしされ、被害者家族ら関係者の不満は高まるばかりだ。4月30日の東京・日比谷の集会では、小泉首相と金正日(キム・ジョンイル)総書記のトップ会談で打開の糸口を見つけてほしいとの要望が出された。また、制裁措置に踏み切ることで譲歩を引き出せとの要求もあった。
今回の日朝協議に関連する動きとして目を引いたのは、4月1〜2日、中国・大連で山崎拓・前自民党副総裁、平沢勝栄・前拉致議連事務局長の2人が鄭大使らと会談、「政治的に率直な話し合いができた」との評価が北朝鮮側から聞こえてきたことである。ここで何らかのシナリオが描かれた可能性を指摘する識者もいる。だが、こうした政府抜きの交渉に対しては、家族会ほか関係者の批判が強く、政府としては今回の日朝協議があくまで本筋で、こちらが正式ルートであることを家族会と再確認するという意味合いもあった。
協議終了後の5日夜、藪中局長は「原則論だけでなく、問題解決のための突っ込んだ意見交換を行った」とコメントするにとどまり、協議の内容は明らかにしなかった。しかし、宋副局長は記者団に対し、「進展があった」と語り、協議内容を持ち帰って検討することを表明した。関係者の話を総合すると、北朝鮮側は8人の帰国・来日を実現させるかわりに6カ国協議では拉致問題を出さないでほしい、さらにこれで拉致問題にピリオドを打ちたい意向を示したようだ。
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