6月8〜10日、米国ジョージア州シーアイランドで主要国首脳会議(サミット=Summit)
が開催される。1975年11月、仏ランブイエでの第1回サミット以来、ことしで30回目を数える。別名G8(Group of Eight)、日、米、英、独、仏、伊、加(カナダ)、露の先進8カ国のトップが集まる、年に1度の頂上会談だ。ちなみにサミットのお膳立てをする参加各国首脳の個人代表は「シェルパ」(登山案内人)と呼ばれている。
サミットは、72年の石油危機のとき、石油輸出国機構(OPEC)に対抗してエネルギー問題を中心に、通貨、貿易などマクロ経済を議論した世界会議が始まりである。ジスカールデスタン仏大統領が提唱し、日、米、英、仏、独、伊の6カ国首脳がパリ郊外に集まった。「自由主義経済の調整と協調の場」という位置づけだった。その後76年にカナダ、77年に欧州共同体(EC)が加わった。このサミットが「政治問題に比重をおく協議の場」に変化したのは、80年以降のことだ。ソ連のアフガニスタン侵攻をきっかけに西側陣営の司令部的な役割を担うことになったのである。この間、先進国に共通する課題として、環境保全、テロ、エイズ、麻薬などが取り上げられた。
さらに、80年代なかばからは経常赤字や貿易不均衡の是正が主要テーマとなり、サミットは「市場開放政策の調整の場」に変化していった。国際経済のあり方が各国共通のテーマとなり、サミットとは別に86年には7カ国蔵相会議(G7)がつくられた。89年には東西冷戦が崩壊し、91年のサミットには、ゴルバチョフ・ソ連大統領がオブザーバーとして招かれた。97年には旧ソ連にかわるロシアが正式メンバーとして参加、G8サミットとなった。98年以後は、コソボ紛争の勃発など、「地域紛争への対応の場」となった。また2003年には関連会合に経済発展が目覚しい中国が初めて参加し、その存在感が高まりつつある。
11月に大統領選を控えているだけに、議長国のブッシュ米大統領にとって、何としても一定の成果を上げたいところだ。最も注目されるのは、「大中東構想」(Greater Middle Initiative)の成否である。パキスタンから、北アフリカのモロッコまでを拡大中東地域とし、政治、経済、社会の改革をG8が支援するというものだ。具体的には、女性を中心に25万人の若者に職業訓練を行うほか、2015年までに2000万人の非識字者を減らすなどの支援策を実施する。だがイスラム圏諸国には、米国による民主化の押し付けだという批判が根強く、イラクの主権移譲問題とも絡んでイラク政策に慎重な仏、独、露の同調を得られるかどうか危ぶまれている。経済問題では、高騰する原油価格への対応策や新多角的貿易交渉の促進などが焦点になる。
華やかな外交の舞台であるサミットへの出席は、日本の歴代首相にとって、外交成果を誇示する格好の場であり、皆みずからの政権基盤の強化に役立ててきた。小泉首相の出席は、中曽根元首相の5回(83〜87年)に次ぐ4回目で、ほかの首相は1〜3回どまりだ。今回は、先の日朝首脳会談(5月22日)の内容を披露し、核・ミサイル・拉致問題の包括的解決に取り組んでいる姿勢をアピールする。また、世界的な原油高、温室効果ガスの増加をうけ、「3つのR」(reduc=削減、reuse=再利用、recycle=リサイクル)を同時に進める「省資源推進構想」を提案することにしている。
最近、サミットについて、首脳同士の議論にとどまり、国際協調体制づくりに必ずしも効果をあげていないという批判が根強い。とりわけ大きいのは、超大国の米国がサミットを軽視するため形骸化した、との指摘だ。だが、中曽根元首相は、「日本にとって自由主義世界のトップと世界政策を論じる場はサミットしかない。非常に大事な国際会議だ。サミットは、動かし方次第で、世界戦略、外交、情勢に大きな影響を与える。日本は『アジアからの発言』により、欧米型思考や政策に修正を加えたり、逆に激励する力を持つ」と、サミットの効用を説いている(読売新聞5月30日付)。はたして小泉首相は欧米間のバランサー役を担い、かつ、アジアからの発言で存在感を示せるかどうか――。
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