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在韓米軍削減
2004.06.10 更新
 6月7日、米国政府は、海外駐留米軍再配置計画(Global Defense Posture)の一環として、在韓米軍約3万7000人のうち、1万2500人を2005年末までに削減することを決めた。このうち第2旅団3600人が8月にイラクへ派遣される。この方針は、ソウルにおける米韓軍事協議であきらかにしたもので、1992年の7000人削減以来の大規模な削減となる。

 このほか、北朝鮮との軍事境界線に配備されている第2歩兵師団が2006年から、ソウル市龍山にある在韓米軍司令部が2007年から、それぞれ漢江以南の後方(烏山など)へ移駐する。米国防総省は、再編の狙いについて、「据え付け式の国防概念(static defence)から21世紀型の迅速機動部隊への転換」と説明している。しかし韓国内には、予想以上に三分の一の削減が早く実現した際に生じる「安全保障上の力の空白」を懸念する声が少なくない。

 これについては、韓国には過去に苦い経験があるからだ。1950年1月、当時のアチソン国務長官が米国の国防ラインから朝鮮半島を外すと演説した結果、韓国の防衛が手薄になると見た北朝鮮が、同じ年の6月に韓国へ侵攻、アチソン発言がそのきっかけをつくってしまったという反省だ。いわゆる「アチソン・ライン」再現の不安である。いっぽう、韓国には「トラップ・ワイア」(仕掛け罠)がなくなってしまうという不安もある。このトラップ・ワイアは、38度線(軍事境界線)やソウルに米軍が駐留しているということは、北朝鮮が南侵しようとした際に、自動的に米国に参戦を迫ることを意味し、いわば保険のような抑止効果を持つ。また、韓国にとって、米軍が北朝鮮に対し安易に先制攻撃を仕掛けることを防止する役割ともなる。

 今回の米軍再配置の背景にあるのは、ブッシュ共和党政権の軍事戦略の転換である。ラムズフェルド国防長官は、「新世紀の挑戦に対処するために軍の重点を変える」として、海外の米軍の位置付けを(1)戦力展開拠点(日本、英国、グアム)、(2)主要作戦基地(韓国など)、(3)前方展開基地、(4)安全保障協力対象地――の4つに分類している。ブラッド・グロッサマン米戦略国際研究センター・太平洋フォーラム研究部長は、「クリントン前政権は東アジア戦略報告で10万人という配備数を維持し、米軍のプレゼンスを強調したが、シンボル的な数字や兵力水準はもはや重要でなく、兵力数より戦力、運用能力が重要になる。それこそが、再編における意思決定の原動力だ」と主張する。(沖縄タイムス1月3日付)

 2003年の米国防報告は、これまでの核、ミサイルに加え、テロという新しい脅威への対抗を強調し、「迅速性に加え、柔軟で軽量な戦力の配備」に重点を置くとしている。米政府は、アフガニスタンやイラクの戦争において精密誘導兵器などハイテク兵器の優位性が立証されたことで、自らの戦略に自信を深めてはいるが、依然として北朝鮮の脅威にさらされている北東アジアでは、在韓米軍の削減はとりわけ心理的影響が大きい。このため米国は韓国の不安に対し、米韓同盟の強化や韓国の自主防衛計画への積極支援などを約束した。しかし、どちらかというと反米的な勢力の後押しで政権を穫得し、北朝鮮との宥和政策を進める盧武鉉大統領だけに、自ら掲げた「協力的自主国防システム」の前倒しを迫られるのは必至で、それは米国離れを加速させるとの指摘がある。

 いっぽう、再配置計画の一環として、在日米軍(約4万人)の移転案が米政府内で浮上してきている。海軍の厚木基地移転や、陸軍の座間基地に米本土の司令部機能の一部を移すこと、沖縄海兵隊の砲兵部隊を北海道に移駐させるという案がそれだ。日本本土には、横田、三沢などの空軍基地、横須賀、佐世保などの海軍基地があるが、最も大きいのが、「太平洋の要石(キーストーン)」といわれる米太平洋軍の戦略拠点、沖縄だ。現在、海兵機動展開部隊(司令部=キャンプ・コ−トニー)の海兵隊約1万7000人はじめ陸、海、空の4軍合計約2万5000人の兵力が集中している。

 ハワイに司令部を置く米太平洋軍は、海・空軍を主体とする戦力を太平洋とインド洋に前方展開しているが、日本と韓国の駐留米軍はその骨格を形成している。韓国には陸軍の第2師団、第7空軍を、日本には、第3海兵遠征軍、海軍第7艦隊、第5空軍を置いている。ちなみに日韓両国とグアム米軍基地(海軍、海兵隊)を合わせた駐留米軍の兵力は、陸軍が約3万1000人、海軍は空母1隻を含む艦艇約40隻、作戦機約70機、兵員約1万9000人、空軍は作戦機約170機、兵員約2万2000人、海兵隊は作戦機約40機、兵員約2万人――の規模になる。

ファーゴ太平洋軍司令官は、下院軍事委員会での証言(3月31日)で、核武装した北朝鮮について、「北東アジア全体ばかりではなく、環太平洋地域の脅威だ」と指摘し、「彼らは壊滅的なテロ攻撃を実行する意思と能力を持っている」と警戒するよう訴えた。いま、核・ミサイル・拉致問題の包括的解決を目指した6カ国協議が継続中であり、その行方が米軍再配置計画とどのようにリンクするのか、日韓両国の関係者は注目している。



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