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論争を読み解くための重要語
多国籍軍への自衛隊参加
2004.06.17 更新
 6月15日、小泉首相は閣僚懇談会で、イラクで編成される多国籍軍への自衛隊参加について、(1)日本独自の指揮命令系統を維持する、(2)活動は非戦闘地域に限定する、(3)イラク人道復興支援特別措置法の枠内で行う、(4)他国の武力行使と一体化しない――の4原則を政府統一見解の柱とすることを表明した。これは、14日に神崎武法公明党代表が提案したものを踏まえたもので、与党の了承を得て、18日の閣議で特措法施行令に派遣の根拠となる新国連決議1546を追加する改正を行った。自衛隊が、国連決議に基づく多国籍軍に参加するのは、初めてのことである。

 イラクの多国籍軍は、6月8日、国連安全保障理事会で全会一致で採択された国連決議1546に基づいて編成される。新決議では、多国籍軍の任務は、「治安と安定」および「人道・復興支援」とされ、多国籍軍は米英軍が主導する「統一された指揮下」(under unified command)に入ると規定されている。6月30日、暫定政府に主権が移譲された後に始動し、正式な政権が発足してから、政治プロセスが完了するまで約1年駐留することになる。

 安保理決議による多国籍軍は、1990年11月、湾岸戦争のときに初めて編成され、今回で15回目になる。湾岸戦争ではクウェートに侵攻したイラクを撃退するための強制軍として、米国の指揮下に28の賛同国が参加した。その後、コソボ紛争やアフガニスタンでは、国連事務総長指揮下の平和維持軍として編成された。東ティモールやハイチでは武力行使を伴わない人道復興支援も含まれている。

 政府および内閣法制局は、これまで自衛隊が多国籍軍へ参加することは、「他国の軍隊と一緒に行動するため、集団的自衛権の行使にあたり、憲法9条が禁じる武力行使と一体化する恐れがある」との立場を貫いてきた。また、そうすれば当然、「参加は多国籍軍の司令官の指揮下に入り、その一員として行動することを意味する。これは憲法上許されない」からだ。ところが、今回、秋山収内閣法制局長官は、「武力行使を伴わない業務に限定できれば参加できなくはない。指揮下に入らない広い意味での参加は可能」、と解釈を変更させた。多国籍軍の「統一された指揮」(unified command)については、「統合された司令部」の意味と解釈し、自衛隊は多国籍軍司令部に従わず独自の指揮権を持てるとした。したがって統一見解では、日本の方針に反する場合は、多国籍軍司令部の命令を断わることができ、任務が困難になるなど必要とあれば自衛隊は活動を中断、撤退できるとしている。

 5月15日以降、イラクにおける治安維持やテロ組織の掃討に当たるのは「多国籍部隊司令部」、人道復興支援に従事する国の部隊は「多国籍軍司令部」が指揮する体制になっている。小泉首相は、14日の国会答弁で、「武力行使を目的とした活動には協力しないことを、はっきり関係国に伝えてある。米英軍も暫定政府大統領も十分認識している」として、自衛隊の多国籍軍参加は、従来の人道復興支援活動だけに限定していることを強調した。

 今回の多国籍軍への自衛隊参加の方針は、6月8日、シーアイランド・サミット(主要国首脳会議)に先立つ日米首脳会談で、ブッシュ大統領に伝えられた。しかも与党とりわけ自民党の頭越しに行った決断で、一切の根回し抜きだった。このいつもの小泉流政治手法には、自民党内から批判や不満の声があがった。「国民にコンセンサスはあるのか。国会でどんな議論をしたというのか。日本の平和に危機感をもっている」(古賀誠元幹事長)、「米国にとっての周辺事態に要求されて支援に行ったのが本質でないか」(加藤紘一元幹事長)などなど、野党も「なし崩しの参加は認められない。新法を制定すべきだ」(岡田克也民主党代表)と強く反対した。

 このイラク多国籍軍には、仏、独、ロシア、カナダは参加しないことを表明しており、現在の「有志連合」(35カ国,約15万人参加)が多国籍軍に衣替えする格好だ。小泉首相が主導し、新解釈によって多国籍軍参加を決定したことについては、国民の側からは、賛成意見と同時に「自衛隊のサマーワ派遣から始まって小泉首相は、つねに違憲の疑いを含みながら進んできた。今回も正面から違憲性を指摘されるのを巧みに避けながらブッシュ大統領への意思表明というかたちで決定を先行している。(中略)まず一度、自衛隊を引き揚げさせ、国会で論議した上で決めるべきだ」(奥平康弘東京大名誉教授、東京新聞6月11日付)という批判も多い。



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