6月24日、第20回参議院議員選挙が公示された。改選されるのは、選挙区73議席、比例区48議席の計121議席で、7月11日に投、開票される。争点のひとつである年金改革法案が、参議院において強行採決され徹夜審議の末に可決、成立したように、参議院が衆議院と同じようになる政党化に一段と拍車がかかった。このため「衆議院の追認をするだけの参議院は無意味。一院制にすべきだ」との議論が改めて起こるなど、参議院のあり方自体が問われている。
世界183カ国中、二院制を採用する国は、英国、米国、ドイツ、ロシアなど68カ国(国立国会図書館調べ)で、全体の約4割を占める。二院制は、普通、国民の直接選挙による下院と、代表などから成る上院(国により性格、仕組みは異なる)で構成されているが、その長所として、二院による「相互抑制」と「審議の慎重化」があげられる。これに対し一院制は、中国、韓国、スウェーデン、ケニアなど115カ国。一院制が初めて採用されたのは、1789年のフランス革命議会。主権は単一不可分であり、国民の主権を代表する議会を分けることは国民の意思を分離するもの、と理解されたからだ。たしかに一院制は、民意の分裂をもたらさないし、保守的な上院による民主的改革への妨害を免れる、というメリットがある。しかし反面、意思決定に慎重さを欠く、多数派の横暴が通りやすい、などの欠陥も指摘される。
日本は、戦前、衆議院と貴族院の二院制だったが、戦後、GHQ(連合国軍総司令部)のマッカーサー総司令官は、貴族院を廃止し、衆議院だけの一院制にするよう提案した(1946年2月)。貴族院が公選によらない皇族、華族、高額所得者らで構成されていたためだが、日本側が「一院制だけだと、無理押しをする危険や、審議の進行に熱心の余り、十分審議を尽くさないうらみがある」(金森徳次郎憲法担当相)と強く反対し、両院とも公選を条件に二院制が採用された。現在の参議院という名称については、一時は「公議院」や「特議院」、「審議院」といった名称も検討されていた。日本国憲法でその権能において、衆議院に対し、参議院より優越性を与えているのはこうした経緯による。
衆議院には、法律・予算の議決、条約の承認、首相の指名においては優越的価値、つまり両院がその意思を異にして両院協議会を開いてもなお意見の一致をみないとき、衆議院の意思を国会の意思とする、ことが認められている。いっぽう、参議院の役割とは、衆議院に対する「抑制、均衡、補充」の機能、すなわち衆議院の行き過ぎをチェックし、足りない点を補完してバランスをとることにある。だが、一般の法律については、参議院で否決されると、衆議院では三分の二以上の賛成がないと再議決されないことになっており、逆に“強過ぎる参議院”という側面(岩井奉信・日大教授の指摘)もある。
参議院の存在意義は、かなり以前から問われてはいたが、なんら独自性が発揮されず「衆議院のカーボンコピー」といわれるようになってから、とりわけそのあり方が問われ出した。参議院の政党化は、全国区が比例区(拘束名簿式比例代表制=政党名で投票、1983年)に変わり、ついで非拘束名簿式(個人名でも投票可、2001年)に変わることにより、いっそう進んだ。落選した衆議院議員の比例区くら替え立候補は、今回、自民、民主、社民の3党で計12人と、3年前にくらべて急増した。個人名による投票数の多い順から当選が決まるため、地域で集票力のある元衆議院議員が復活しやすいからだ。
最高裁判所はことし1月、平等であるはずの、いわゆる1票の格差について、3年前の参議院議員選挙の折、東京と鳥取の1人あたりの有権者数が124万7000人対24万000人と、5.06倍の格差があったのを「合憲」とした。しかし同時に「現状のまま格差の是正を放置すれば違憲判断となる余地は十分ある」という警告を出した。参議院の「定数格差問題協議会」はこれについて今回、時間がないことを理由に先送りした。このままでいけば、選挙後に訴訟が提起されると違憲判決が出る可能性が高いとみられている。
参議院が、期待されている"良識の府"の姿を取り戻し、一院制論議を退けるためにはどうすればよいのか。参議院議長時代の2000年に、「再議決権の緩和」や「首相指名権の廃止」など画期的な改革案をまとめたものの、その実現を見送られた斎藤十朗氏(今期で引退)は「参議院は政局から一歩も二歩も離れた存在であるべきだ。衆議院とは別の政党をつくることが究極の参議院改革かも知れない」(「朝日新聞」5月5日付)と指摘している。また、元検事の佐藤道夫参議院議員は「被選挙権は50歳以上とし、政党に属さず、会派の審議拘束もなくし、任期を2期12年に限定する」ことを提案している。いっぽう、独自の憲法改正案づくりに取り組んでいる保岡興治・自民党憲法調査会長は「中長期の問題として、行政、司法、国会のベテランの中から代表を参議院に送り込むという工夫もありうる」と改革の課題を提起している。
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