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論争を読み解くための重要語
イラク主権移譲
2004.07.01 更新
 6月28日、米英軍主体の連合国暫定当局(The Coalition Provisional Authority)は、イラク暫定政府に対し主権を移譲、昨年4月9日にフセイン政権が崩壊してから1年2カ月ぶりに占領統治に幕を降ろした。当初予定された6月30日の主権移譲を急きょ前倒ししたのは、過激派らによる大規模テロを警戒したためで、式典もヤワル大統領(イスラム教スンニ派出身)、アラウィ首相(シーア派出身)らごく限られた関係者だけが参加する異例のものだった。

 独立した国家が有する主権とは、外部の意思に支配されない統治権力だ。しかし、イラクの場合、26省庁で構成される暫定政府は、司法権や、教育システムなど行政権の行使および石油資源の管理権こそ持っているが、治安の維持は、国連安全保障理事会決議1546に基づく多国籍軍に委ねられるなど、完全な主権を持っているとはいいがたい。ただ、「国民が待ちかねた歴史的な日」(アラウィ首相)であり、アラブ世界で初めて、選挙で選ばれる代表が構成する議会によって政府がつくられることを考えると、国民主権国家へ向けて第一歩が踏み出されたのは間違いない。

 民主化プロセスは、まず1000人から成る暫定国民会議が7月20日に召集され、その後、代議員100人で諮問評議会をつくり、暫定国民議会選挙を実施(来年1月2日予定)、ついで新憲法を制定し、2005年12月までに新憲法による選挙を実施して、正式な政府誕生という段取りになる。だが、イスラム過激派らによるテロ攻撃で治安情勢が悪化しているほか、シーア、スンニ両派、クルド人、その他の部族らの利害調整がうまくいくかどうかが不安視され、前途は多難だ。

 ヨルダン人のザルカウィ氏が率いる「統一と聖戦団」による連続テロをはじめ、イラクにおけるテロ攻撃は、最近激しさを増している。多国籍軍の多数を占める米兵の死者は、戦闘終結宣言の昨年5月1日以前は138人だったのが、占領統治に移行してから712人を数えている(米国メディアの報道)。現在、イラクに展開する兵員は、多国籍軍が35カ国約16万人、それにイラク軍、治安部隊、警察を合わせると約36万人に及ぶ。しかし、英国国際戦略研究所の分析によれば、イラクの治安回復には約50万人の兵力が必要という。このため米国防総省は、現在、約13万8000人の兵力にさらに約2万5000人の増派を検討中だ。6月29日には、さる4月に反米武装勢力に誘拐されていた米兵1人が処刑されたほか、海兵隊員3人が殺された。主権移譲後は、イラク軍・治安部隊の訓練をNATO(北大西洋条約機構)軍が行うことになったが、治安回復にどこまで役立つかは未知数だ。

 日本は、「イラク人の力で自らの国をつくりあげていく体制が整った」(小泉首相)と主権移譲を歓迎、引き続き給水などの人道復興支援活動を行うことにしている。また、10月には3回目の「イラク支援国会議」の東京開催を米国と合意するなど、政府開発援助(ODA)による資金面での協力も継続させていく。昨年10月のスペイン・マドリードにおける支援国会議では、4年間で50億ドルの支援をすでに表明しているが、今後はそのうちの無償資金協力を早期実施する予定だ。他方、警察庁は、初めて自衛隊が多国籍軍に参加するということもあって、スペイン総選挙中の3月11日に起きた列車爆破テロを教訓に、参院選の間はとくに国内でのテロ攻撃や要人襲撃に厳戒体制を敷いている。

 国民議会選挙などで主導的な役割を果たすことが期待されているのが国連だ。しかし、主権移譲について、「国民団結と和解の精神の下、すべてのイラク人がともに集うことを求める」(アナン国連事務総長)との声明を発表したものの、要員派遣のメドが立っていない。

 11月の大統領選を控えたブッシュ米大統領は、米国防予算の25%近い1000億ドルを超えたイラク戦費を抱え、今後の対応に苦慮しているが、29日、訪問中のトルコで演説し、「イラクでの民主主義の始まりは、中東全域に希望をもたらす」と主権移譲の成果を誇示した。



関連論文

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私の主張
(2004年)国家存立の戦略からして当面、日米同盟の強化こそ不可欠の選択である
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(2004年)「独立の精神」を忘れた日米同盟の強化など、従属の表明にすぎない
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[基礎知識]国際秩序の基軸とすべきは同盟か、国連か?
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[基礎知識]イラクの復興に日本は何をすべきなのか?
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[基礎知識]自衛隊のイラク派遣は恒久法制定への第一歩か?



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