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論争を読み解くための重要語
メガバンク
2004.07.15 更新
 7月14日、経営立て直しを進めているUFJホールディングス(HD)は、臨時取締役会を開き、三菱東京フィナンシャル・グループ(FG)へ経営統合を求めることを決めた。これが実現すれば、総資産約190兆円の世界トップのメガバンクが誕生することになり、日本の金融界は、みずほFG、三井住友FGとともに三大グループに再編される。

 わが国の金融界は、資金需要に対し銀行の数が多すぎる、いわゆるオーバーバンキング状態にあり、これを解消して国際競争力を強化することが課題とされてきた。このため、金融政策の舵取り役の竹中平蔵経済財政・金融相が2002年秋に打ち出したのが「金融再生プログラム」で、貸出額の8.4%、約27兆円あった大手銀行の不良債権の比率を2004年度中に4%台まで半減させることを目標にしていた。この過程で竹中金融相は、「日本のメガバンクは2つか3つが適正」との持論を明らかにしており、その意味で今回の再編は織り込み済みだった。

 今回の経営統合の大きな理由の一つは、UFJのお粗末な経営体質にあった。すでに1兆5000億円もの公的資金を受けていながら、経営不振の大口融資先を多数抱え、不良債権比率は8.5%と、標準の5.18%をはるかに上回った。また、金融庁の金融検査で検査資料隠しなど5件の業務改善命令を突きつけられ、他行が軒並み黒字を計上するなか、UFJは2004年3月期決算も約4000億円の大幅赤字に陥った。さらに自己資本比率が8%(国際業務を行う銀行に義務づけられる率)を割り込む危険があり、先のりそな(2003年に公的資金を注入)同様、国有化されかねない状態だった。経営統合はいわば生き残りを賭けた窮余の策だったわけだ。

 いっぽう、三菱東京は、いち早く公的資金を返済し、自己資本比率12.95%と健全経営が自慢だったが、国際業務や法人取引には強いものの、貸出残高は45兆円とみずほに20兆円も水をあけられ、業務純益も4大銀行グループのなかでは最下位の6548億円。三井住友1兆円、みずほ9541億円、UFJ7946億円に比べ、もうけが少ないのが実際だ。この点、非財閥系で大企業向けは弱いが、国内リテール(個人、中小企業向け業務)に強いUFJと統合すれば、理想的な補完関係が成立する。

 今回の経営統合について、「一般的に言って、再編とか合併とか経営の効率化に資するのであれば望ましい」(五味広文金融庁長官)と歓迎する空気が強いが、UFJをメーンバンクにしていて、再建を迫られているダイエーや双日、大京などは、より厳しい局面を迎えることになりそうだ。なぜなら統合によって不良債権の処理が一段と加速されるからだ。ダイエーに対しては産業再生機構を活用するプランも浮上している。また、統合による両グループの連結従業員数は、合計5万4592人。みずほの2万7940人をはるかにオーバーしており、大幅なリストラは避けられない。

 今後両グループは、本年度内にFG、HDの両持ち株会社が合併し、傘下の東京三菱、三菱信託、UFJ、UFJ信託の4銀行が新持ち株会社に組み入れられる。さらに、数年後には銀行と信託銀行がそれぞれ合併して、最終的には都銀、信託各1行に集約する見込みだ。また、それとともに系列の証券、保険会社も統合される。ただ、UFJは組織的な検査忌避をするなどコンプライアンス(法令遵守)に欠けている点を改善するよう命令されており、統合されたからといって、どこまで旧UFJの経営体質の改善がなされるか。また、住友信託銀行がUFJ信託銀行との統合を白紙撤回されたことに対し、損害賠償請求訴訟を検討しており、この行方も含めると、まだ曲折がありそうだ。しかし何よりの朗報と受け取ったのは、安心して来年4月のペイオフ解禁を迎えられるようになった、つまり破綻を心配する必要がなくなったUFJの預金者ではないだろうか。



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私の主張
(2004年)財政に頼らず株価と景気を押し上げた。だがそれは改革の序章にすぎない
竹中平蔵(経済財政政策担当大臣、金融担当大臣)
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(2004年)資産価格の暴落で企業が借金返済に走ったことが金融の血液を逆流させた
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(2003年)邦銀の合併・統合は組織防衛のためにすぎない。みずほ事件がその象徴
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[基礎知識]りそなの実質国有化が金融界に与えた影響とは?
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[基礎知識]超金融緩和のもとでなぜ資金停滞が起こるのか?
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